台湾ミクパに9000人が集まったというニュースの翌週。
 例によって例の如く経産省のクールジャパン戦略の渦中。
 会場となった有楽町の東京国際フォーラムにはミクさんの等身大フィギュアが展示されてるそうですが。

 IMFとは、国際通貨基金の意味です。「イミフ」ではありませんし、新興のプロレス団体でもありません。「IMF世界へビー級選手権」なんて試合は行われていないのです。
 そのIMFの年次総会と同時開催なのが世界銀行総会だそうで、これは加盟188ヵ国の財務大臣や中央銀行総裁が集まるのですが、どちらも本来の開催国であったエジプトの政情不安により日本での開催と相成りました。
 もっと分かり易く言うと、これってグローバルな闇金関係者の皆さんの集会ですね(たぶん)。

・ 初音ミクさんじゃないですか! IMF・世界銀行年次総会の会場やサイトに登場 - ねとらぼ
 (ミクさんの展示に関して詳しい)

 会場にはここぞとばかり主催国の様々な科学技術や工業製品、また文化の産物が展示され、今回配布された資料の中に「コスプレ」の項目があったという事です。
 J-custニュースも等身大ミクフィギュア展示の件は記事になってましたが、内容が低レベルなのでリンクは貼らん。
 「漫然と眺めていてはダメなんだ!切り口はいくらでもある!」(週刊ファイト井上義啓編集長っぽく)

・ IMF公式ページ『面影日本 日本の本来と将来のために』(リンク先のページ内資料は全てPDF)

>コスプレは世界に通じる和製英語で英語表記はcosplay。アニメやゲームなどの登場人物のキャラクターに扮することで、たちまち物語世界がその場に再生され出現します。

[追記]
 上記の資料内に写真が掲載されているコスプレイヤーの沙谷さんは、残念ながら昨年3月にお亡くなりになっているそうです。
 この総会は、開催地が昨春からのエジプトの政情不安によって急遽日本に変更されているので、ご本人が生前にこの資料への写真掲載を了承していたとは考えにくく、そういった辺りの経緯が分からないので、引用していた画像は下げました。


 上記の資料「イメージする日本」全体の中では18p目(同資料を分割された「奥から立ち上がる日本のコンセプト群」だと7p目)では、本当に初音ミクのコスプレイヤー写真が載っていて、「コスプレ」が日本文化として紹介されたのであった。

  他、52pに「ゴスロリ」、56pに「刺青」なども紹介されていますが1/10面程度の小さな枠なので、「コスプレ」に約1/3面も使っているのは、やは り大きな扱いと言えますな。全体的に読み易くて興味深い資料ですので、時間のある際に目を通してみれば面白い発見があるかもしれません。
 あ、余談ですがアニメや漫画を前面に押し出した「クールジャパン戦略」とゆー言葉は、主に経産省の推進してる文化輸出戦略において多用される言葉で、外務省の場合は同じ様な事を「ポップカルチャー外交」とか言ってますね。

 別にコスプレが日本文化として紹介される事自体は最早そんなに驚きませんが、ただ載ったというだけでなく、これがどういった文脈によって紹介されたかを見てみると、なかなかに興味深いです。
 資料の制作は、編集工学研究所の松岡正剛氏によるものだそうですが。
 どうやら、日本文化の“見立て”の一端としての紹介という事でして。

 見立て…そこに無いものを、有るもので置き換えて描く。
 例えば…
 能や狂言といった伝統芸能では、部分的だったり抽象的な造型物を、舞台上では実際の光景に“見立て”る。
 存在しない極楽浄土を、砂や松を使って“見立て”たお寺も沢山ありますね。
 落語家さんは手ぬぐいや扇子を、サイフやキセルといった小道具に“見立て”つつ演技します。
 日本の娯楽や芸術においては、日常的に実に沢山の“見立て”が存在している訳です。
 これらは今風に言えば、「脳内変換」と言ったところでしょうか?風情もクソも無い言葉ですけど。
 つまり“見立て”文化とは、単純に視覚的なリアリズムを追求するのではなく、想像力のフィルターを通過させる事で、受け手に委ねるという事でしょうか。
 映像的に例えれば、アメリカでは立体を強調した3Dアニメーションが、日本では平面的な2Dアニメーションが隆盛したのも、そういった“見立て”の文脈で考えると分かり易いかもしれませんが。

 コスプレを、こういった日本の見立て文化の一端で捉える着眼点というのは、面白いなーと思いました。

 二次元の存在を、現実の存在に見立てていく。
 他の国にだってそれはありますけど、日本ではこれを歌い手・踊り手・絵師・コスプレイヤーが数万・数十万人単位で行っていった所に、(コスプレに限らず)初音ミクというムーブメントだって存在している訳ですが。

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 見立て方が間違った人の例。(筆者)

× × × × ×

■ 海外から見た日本のコスプレ文化って特殊らしい ■

 IMFから話は飛んで。
 僕もあんまり海外イベントへの見聞が広い訳でも無いと思いますが、ちょっと分かってる事だけで。

 上記の様に経産省の文化輸出戦略や外務省のソフト外交にも組み込まれているコスプレですが、世界的に見ると日本のコスプレは「ガラパゴス化」しているのだろうと思います。
 外国人のオタクは日本をコスプレの聖地だと思っているけど、いざ観光に来ると秋葉原ですら客引きのメイドさん位しか見かけないので、拍子抜けする事もしばしばとか。
 (国によりますが)コスプレのまま電車乗ったり、車移動したり、会場近くのホテルからコスプレのまま来場するのが当り前で、「コスプレイヤー」が一部では職業として成立しちゃってる国の人達から見たら、これは不思議だそうです。
 仕方ありません。

 基本的に日本のコスプレは、海外と比較すると、とてもクローズドな中で行われているからです。
 80年代中期に警察からの「風紀を乱す」指導で、コミケへのコスプレのままの来場が禁止されます。
 90年代以降にコスプレ人口が爆発的に拡大しても、コスプレは同人誌即売会の添え物的扱いや、ダンスパーティ形式…などインドアなものが主。いずれにして も「コスプレのままの来場禁止」が各地で徹底され、その辺の街中でコスプレは見かけません。やったらネットに晒されて集中砲火で叩かれます。
(ところで「他人の目を考えての自制」は、村社会など共同体文化のある国の特有なんでしょうか…?)

 ここ数年はようやく、一般人と混在するテーマパークや大型商業施設を使ったイベントも定着してきましたが、そこに至るまではずっと一般の目から“伏す”“隔離する”傾向が有りました。
 それは風俗的な意味に由来する「コスプレ」との混同から、マスコミの極端な扱いや、異質なものを良しとしない周囲の目や、それによって会場が借りにくくなったりする事への懸念が永らくあった訳ですが。
 そして近年になって、バブル期に作ってしまった“綺麗だけど人が来ない”テーマパークや商業施設が、各地で乱立気味のイベンターによってコスプレイベント会場として開拓されて行った訳ですが。

 しかし、いずれにせよ、日常の生活圏でコスプレしている人はとても少ない。パーセンテージで言えばゼロに近い割合でしょう。
 それぞれイベントだとか、お祭りだとか、スタジオ撮影会とか、ロケとか、日常生活とはちょっと離れた所でのみ行われていて、多くの人目には生で触れない様にしている…。
 …にも関わらず、日本国内だけで数万人を超す規模の相当なコスプレイヤー人口を形成している。
 この、A:「コスプレは隠すべき」という意識、B:コスプレイヤーの人口増
 一見矛盾する様に見えて、実は同じカードの表裏の関係です。

 「これは隠すべき趣味」「あくまで秘め事なのだ」という共通(共犯?)の意識が、コスプレする少女(?)達の中にあった非日常性=変身願望を満たすのに、とても上手く作用した…と考えると、辻褄は合うと思うのですが。

 日常の中の非日常。
 現実的な非現実。

 …時代は変わりつつありますが、オープンにする楽しみ方も、クローズする楽しみ方も両方あると思います。
 必要なのは、一般常識と、“棲み分けという形での共存”だけであって。

 さてさて。個人的には日本のコスプレは、裾野が広がっているとはいえ、どこかにアングラでサブカルな匂いが残ってた方が良いんじゃないかなー、とは思いますが。
 以下、あくまで例え話。
  ガラパゴスの島の住人達にしてみれば、放っておかれた方が平和だったに決まってます。でももう、外からの開拓も開発も始まっちゃってるんです。なら後は、互 いにとってなるべく幸福な形で、少なくとも不幸ではない形で、話が通じる人達に進めて頂くしか無いんじゃないでしょうか…?
(まとめようとしてる様な、全然まとまってない様な…)

× × × × ×

 最近、初音ミクという存在を文化史の中で捉え、研究対象とする動きは、大きくなっております。
 んじゃついでに、コスプレを文化史の中で捉えて考察する流れも、もっと大きくなって良いと思います。
 僕なんかよりも頭の良い人はレイヤーの中にも沢山いるので、是非やってほしいなー。
(研究者はいるけど、当事者じゃないとどうしてもズレが出てくるんで)
 

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