という訳でめずらしく今、旬な話題を取り上げてしまいます。
 隔月刊のコスプレ雑誌「コスモード」を出版していたインフォレスト社が倒産し、発行継続が危ぶまれているという件です。
 と言ってもあんまり速報性は無いです。
 ニュースを整理して、読み込んだり噛み砕いたりするのが目的なので。
 以下、だいたい6000文字。


・ 大型倒産速報-帝国データバンク[TDB] 
・ 「小悪魔ageha」などを出版していたインフォレストが倒産、負債30億円 - GIGAZINE
・ コスプレ専門誌『COS MODE』(コスモード)廃刊か。出版社「インフォレスト」が事業停止-ラジ館プレス
・ 決断 -YOL.BLOG(フォトグラファーのYOLさんのブログ)

※ 衣装製作や生地販売を行っていたコスモード(有限会社ESic)とは同名ながら無関係。

[追記] 4/26ニコニコ超会議3内で、副編集長の山本麻子さんから、別の出版社から復刊に向けて動いている旨が告知されました。 
 
◆ ザッと振り返るコスモードの功績~なんで休刊危機で騒がれる? ◆

 コスモードは、2002年に「COSMO」という誌名で創刊された、史上初の“コスプレイヤー向け”コスプレ専門誌です。
 もちろん、それ以前にもコスプレ雑誌やムックはありましたが。

 1980年代から「月刊OUT」「ファンロード」などでコミケの度にコスプレ写真の投稿が載っていましたが、1995年にリイド社のゲーム雑誌「GAME遊2」が他のゲーム雑誌との差別化のため、コスプレイヤーからの投稿写真を積極的に載せた所の反応が大きく、同社は日本初であろうコスプレ写真集「コスプレ天国」を1,2号発行し、物珍しさから累計で5万部のヒットを飛ばします。
(同時期にキャロット出版も「コスプレイヤー大集合」という写真集を発売)

 この時期からコスプレ関連の雑誌や写真集という物がいくつか発行されていくのですが…どうも長続きしません。
 まだまだコスプレがサブカル…というかアングラだった時代、コスプレイヤーだけを対象に雑誌や写真集を作っても売れる見込みではなかったため、どうしても露出度の高さや素人物のエロ要素を入れたがってしまい、レイヤー向け雑誌としてもエロ雑誌としても中途半端な存在になってしまいがちで、売れたのも最初だけ。どの出版社からも3号以上継続して発行された例はありませんでした。
 これらコスプレ出版物のブームは90年代末までに鎮火し、一旦の終焉を迎えます。
(漫画家の一本木蛮先生や、ルーク&みちるの双子サラとかのスターも生みましたが)

 2002年、コスモード(COSMO)の革新性は、徹底的に「コスプレイヤー向け」にフォーカスした点です。
 旧来のコスプレ雑誌にありがちだったエロ要素を排し、コスプレイヤーが望む撮影や造型テクニック、イベント/スタジオ情報、そして自分で作れる型紙見本などに特化したのです。
 また、マット加工の高級っぽい表紙や巻頭ページに美麗なグラビアを入れつつ、各地イベントにも出張してコスプレイヤーを撮影し、生の姿を取り上げた事も大きいです。ホラ、ストリートファッション誌もそうだけど、自分や友達が載ってる雑誌って買っちゃうでしょ?

 いわばコスプレ雑誌というジャンルを、男性向けエロ雑誌のイメージから、女性向けファッション雑誌のイメージに転化させた訳です。
(なおマイナス面として、コスプレ初心者でも技術的に底上げされた反面、みんな同じ顔になってしまった件、あるいはコスプレする事=美麗な写真を残す事に偏ってしまい、ゆるく楽しむ事を忘れがちになってしまった…みたいな意見もあります)

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十数年の間にコスプレ雑誌のイメージは変わった…

 大門編集長(現・編集総括)はシンポジウムなどで創刊時の苦労話を語っています。
「純粋にアニメキャラのコスプレを扱った雑誌を作ろうとして、イベントへ行ってレイヤーさんに声をかけましたが、だいたい10人中8人には断られました。どうしてもエッチな雑誌の取材だと思われてしまうんです。
 本の取次を相手に、コスプレ雑誌を作るという話しても、『エロ本作るんですか?』って聞かれて…いえ、アニメキャラのコスプレですって言っても、今度は『アニメキャラのコスプレでエロ本なんか作ったらダメでしょう!』って…」


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 またコスプレ雑誌としてはおそらく唯一、他の人気ファッション誌と同じように海外版が発行されており、主にアジア圏で広く読まれています。なので海外イベントの取材記事も掲載されています。
 本誌でグラビアに登場した日本人レイヤーが海外イベントにゲストとして招待されて、日本国内では考えられないような歓待を受けたりする機会もあるそうですが。
(声優やアニソンライブやミュージカルといった公式コンテンツが少ない地域では、代わりにコスプレイヤーがアイドル化・タレント化できたのです。日本国内ではたぶん無理)

 なのでコスモードを読むと、好き嫌いは別として、国内外のコスプレのトレンドがだいたい分かるのでした。

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 隔月刊の専門誌でここ数年は公称8万部。実売数はもっと少ないでしょうが、定価1200円の雑誌としてはイイカンジの売れ行きでしょうか。
 そしてコスモードの成功は、他社からも類型のコスプレイヤー向け雑誌を生んでいきますが、その多くが模倣の域を抜け出せず、これも長続きした物が殆どありませんでした。
 2003年創刊の「電撃レイヤーズ」が32号まで(不定期刊化…と最後に告知しつつその後一度も出てない)、2007年創刊の「コスBON」が5号までを発行した以外は、ほぼ全てのコスプレ雑誌は1,2号で休刊しました。Cureが協力した「CosCure」でさえ2号、アーカイブが協力した「COS・A」なんて創刊号が休刊号です。
 本当の意味でコスモードと読者層が重なっていたライバル雑誌は、他のコスプレ雑誌ではなく「KERA」「ゴスロリバイブル」辺りだったという見方も出来ます。

 余談ながら、正確に言うと「雑誌」ってのは雑誌コードが設定されてる発行物で、それ以外は「書籍」扱いなんですけどね…。
 コスモードの場合、英知出版ではずっとムック扱い、インフォレスト移行後もまだムック扱いで、2008年12月の25号から、正式に雑誌コード扱いです。

CIMG1993コスモード雑誌可新創刊
名実とも雑誌扱いとなった2008年の25号表紙には大きく「新創刊」。

 常識ですがコスプレイヤーは圧倒的に若い女性層が多く、現役は数年でゴッソリ大部分が入れ替わってしまうので、世代を超えて残る共通の物というのが案外、少ないです。
 そんな中、コスプレ雑誌ではコスモードだけが独占状態で12年もの歴史を誇っているので、今読んでる人以外にも、かつて読んでいた人や、昔載った事があるという人が沢山います。

 だから、他のコスプレ雑誌なら休刊しても「あぁ、またか」なのですが、コスモードが無くなるかもしれないとなると、現役レイヤー以外からも注目を集め、騒がれたのでした。
 

■ 出版社の移り変わり~会社が潰れてもコスモードは生き残る! ■

 内容以外に出版社に注目してみると、初期のコスモードは英知出版から発行されていました。これは「デラべっぴん」「ビデオボーイ」などのソフト路線エロ雑誌で90年代に隆盛した出版社でした。
 が、2007年4月の英知出版倒産後に、インフォレスト社へ移行します。
 版元が潰れても編集部ごと別の出版社へ移行して発行を再開できたという事は、それだけ媒体としての価値があったという事ですから、現れては消えるコスプレ雑誌というジャンルの中において、やはりコスモードは別格の存在であったと言えるでしょう。
 ここ数年は別冊として、よりライトな姉妹誌「COSNAP!」や撮影テクニックに特化した「カメコス」を展開するなど、より手を広げていた感じがあります。
 もっとも、女子レイヤー目線に合わせ過ぎて、男子レイヤーが蚊帳の外な感じは少し鼻につきましたが。

 ついでに以前、「コスモードネット」というコスプレSNSを作って割とすぐ撤退したり、それを転じて「コスプレブログランキング」を作って結局廃止したり、出版ではともかくネット関連事業では色々と失敗もありました。

 余談ながらインフォレストでは2009年、かつてラポートや大都社から発行されていた休刊中の「ファンロード」をコスモード増刊号として計3回発行しました。後にまたグライドメディア社へ譲渡しますが。
(ファンロード編集部は銀英社という独立の編集プロダクション)


 そして2014年4月、今度はそのインフォレストが倒産に至ります。
 英知出版は経営悪化から倒産する前に、一般誌を優先してインフォレスト社へ譲渡するなど割とスムーズに移行を行いましたが(コスモードは最後だったけど)、インフォレスト社の倒産は唐突だったので、なかなかショックが大きいみたいですね。

 COMODE編集部ツイッターアカウントでは、継続へ向けて動いている旨が宣言されました。
(追記:別の出版社から6月復刊の予定だそう…)

編集部からのお知らせです。 諸々の報道で、お騒がせしてすみません…。 コスモードは次号より新たな出版社で刊行すべく準備を進めております。 引き続きどうぞよろしくお願いします。 


■ 雑誌の収益ってどう上げる?~広告媒体としてのコスプレ雑誌 ■

 さて、社会人には割と当り前の話かもしれませんが…ちょっとお勉強。
 雑誌が収益を得るための収入源って、どこでしょう?
 本を沢山売って、その売上?もちろんですけど、それだけじゃありません。
 広告収入というのも重要になります。

 最近の女性誌にやたら巨大な付録がくっついてて、どっちがメインか分からなくなったり、原価が跳ね上がってるであろうケースもあります。それは本としての売上よりも、付録によって読者を確保し、広告媒体としての価値を守り、掲載される広告料で利益を出そうとしているからです。
 「広告を集めるために付録で釣って部数を上げる」…と書くと本末転倒な気がしますが。
(コスモードも型紙が付録になっていて、これが残ってるとオタク向けショップでの古本買取価格がちょっと上がりますよ)
 フリーペーパーなどは完全にこれで、本は大量に無料配布して、広告料で利益を出しています。求人雑誌とかクーポンマガジンが多いですね。

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 ですが広告とは、必ずしも部数の多い媒体に載せてしまえば良いという物ではありません。
 どんだけ部数が多くても、コロコロコミックに腰痛ベルトの広告を入れても意味がありません。健康雑誌にゴスロリ服の広告を入れても意味がありません。
 マニアックな商品広告の場合は、単純な発行部数の大小よりも、広告主が商品を売りたい層の読者に、ピンポイントで読まれている事が重要です。
 ファッション雑誌がジャンル内で嗜好や年齢層ごとに細分化しまくった理由の一つはこれです。

 2000年代に入ってにわかに増えたコスプレでビジネスをする企業…衣装屋・ウィッグ屋・撮影スタジオetcが、まず広告の出稿を検討していたのが、コスプレ雑誌(あとコスプレSNS)。その中でも発行歴が長いとか、比較的に部数が大きいとかを考えると、必然的にコスモードになっていきます。
 ではコスモードの広告料金ですが、4色(つまりフルカラー)の1ページ広告枠で、広告代理店で扱われている定価は50万円です。実際には定価より下げて売っていたと思いますが、結構なお値段です。
(何処の雑誌でも広告枠は安く買い叩かれるのが嫌なので、本当の金額って表に出さないのです。同じ広告面積でも広告主との付き合いの深さによって金額は変わるので)

 つまりコスモードは、企業から見ても、広告媒体として優れていた=コスプレイヤー層からの支持があったという訳ですね。

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 では今現在はと言うと…手元にある最古の21号(2008年4月)、正式に雑誌扱いとなった25号(2008年12月)、最新の57号(2014年4月)で広告ページはどう変わったでしょう?

 自社広告を除いて、21号は16ページ→25号は24ページ→57号は8ページ…おっと、数年の間に広告ページは半減しています。
 実際には余ったページの穴埋めで安く広告枠を売るケースも有り得るので一概には言えませんが、数が減っている事は間違いないです。
 これ、コスプレ雑誌に限った事じゃありません。あらゆる企業は広告を雑誌ではなく、ネット広告へ移行しているのですから。
 出版社が積極的にWEBサービスを展開し、ネット通販を始めたりする時代。雑誌は、雑誌そのものを売るよりも、雑誌を通して商品を売るという、それ自体が巨大な広告(=カタログ化)としての存在になっていくのかもしれませんが。

専門誌ジャンル別出稿のご案内/雑誌広告媒体一覧-専門雑誌広告代理店堀越 
広告情報-インフォレスト

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 ニュースで触れられていますが、インフォレスト社は(無知な親会社の方針で?)部数の低い雑誌を休刊させて減らした所、広告収入も減ってしまい経営を悪化させた…という状況が伝えられています。
 部数は低くても、広告媒体としては有効な雑誌もあったのに…という所でしょうか。(他にも表に出ていない事情もあるのでしょうが)だとしたら完全に経営側の舵取りミスだったと思います。

 読み物としての雑誌。広告媒体としての雑誌。
 インフォレストに限らず、これらは時として同じ社内やグループ内でも対立を生みます。

 編集サイド「客は読者。読者が沢山読んでくれて、部数が伸びてほしい」
 営業サイド「客は企業。広告が沢山入って、スポンサーの商品をPRしてほしい」
 みたいな意識の差は、どうしても起こりがちです。
 両立できれば良いですが、こじれると「記事内容より付録のグッズの方がメイン扱い」とか、「スポンサーの商品を記事内で不自然にプッシュしまくる」とか、あるいは「尖った記事で業界のタブーに触れてしまい偉い人を怒らせる」みたいな事が起こったりします。
 このバランスをとるのが、難しいですけれども理想的な経営です。

 分かり易く例えると(?)、「週刊プロレス」は最盛期には毎週20万部も発行していましたが、業界最大手の新日本プロレスへの批判記事を連発した折、新日プロから取材拒否を通告され、その試合が掲載できなくなってから急速に部数を落とした例があります。なまじ専門誌であるが故に、業界のタブーに触れられない・大手企業との癒着記事を書く体質になってしまう事もあるのです。
 また昔あった「ゲーム批評」のように自由なポジションでTVゲームを批評するために、ゲームの広告を一切入れないというケースもありました。広告収入には頼れないために雑誌本体の価格は高めになってしまい、気軽には買い難い雑誌でした。

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 コスモードで言えば、イベント情報やレポやアンケート調査や製作記事などはやはり非常に有用でしたが、どうしても、専門誌であるが故に業界の恥部や暗部には触れられないようにも見えます。
 現在ではネットというメディアが発達したので、商業メディアでは触れられないその辺を補完するのが…小回りの効くニュースサイトや個人ブログの役割になるのかもしれません。
 ちなみに僕のブログでたまーに貼ってるアフィリエイトの広告収入ですが、4年間でのPV40万件に対して、約700円です。
 僕には文章をお金にする才能は無いらしいので、誰かゴーストライターとして雇っていただければと思います。長髪などのキャラ設定はおまかせします。

 …何の話でしたっけ?

 あぁ、コスモードは廃刊ではなく、あくまで(また)出版社の倒産なので、再生の道は当然あるでしょう。それを支持する人が沢山いるのならば、というお話でした。
 もう一つ。何でも独占状態ってのは良くないんです。
 どこか別の出版社や編集プロダクションが、次の新しいコスプレ雑誌をヒットさせて、コスモードの牙城を揺るがしてこそ面白いのかもしれませんね。
 かつてコスプレSNSとして独占状態だったCureが、後発のコスプレイヤーズアーカイブとの競争の中で、機能やメディア戦術を強化していったように。




 という伏線から次回は「村上隆とCureがコラボったシックスハートプリンセスのコスプレ演劇は結局どうだったのよ?」をお送りしたいですが、その前に4/26ニコニコ超会議でのコスプレサミット予選会(ホール3で12:15~)に向け準備してるので、更新は遅くなります。
 ってゆーかコスサミ予選期間中は言動おとなしめになります。
 会場での観覧やニコ生で応援(ウチに限らず他の予選出場チームもね)よろしく…


 …何の話でしたっけ?
 

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