かつて有害コミック規制運動をめぐる「コミケ幕張メッセ追放事件」から24年。
 通常コミケではなく、5年に一度の「コミケットスペシャル6 オタクサミット」が、サプライズで3/28-29に幕張メッセ開催となった。
 …普段のコミケではあり得ないような企画が山盛りの中、二日目のステージでは、世界コスプレサミット日本代表選考会、今年度の最初の地区予選がスタート。
 今回を含む複数の地区予選と国内決勝を経て選出された日本代表チームが、8月の名古屋で24カ国代表によるチャンピオンシップ出場する訳である。
 コミックマーケットと、世界コスプレサミット=WCSがクロスした記念日であった。


 …というのが、表向きの正史であると思う。
 ところがこの件、少々、前日譚が存在する。
 毎年書いてるのでもう分かると思うが、コスサミは2013年から実行委員会の主催が、TV愛知→(株)WCSへ移行し、同時に国内予選部門を分離して、そちらの運営をCOSSAN=(株)ミネルバに外注している。

 このCOSSAN、昨年2014コスサミ国内予選の期間中に、主力スタッフらの大量離脱、団体の分裂劇(そのドサクサでの地区予選の審査表の紛失事件)を起こした。
 2014年の国内決勝はスターライズタワー(旧:東京タワースタジオ)が舞台だったが、この国内決勝の時点でCOSSANはもはやイベント団体の呈を成しておらず、開催すら危ぶまれる中、関東圏の複数のイベント団体やスタッフ経験者による有志らの協力を受け、この窮地をなんとか乗りきったのであった。

 この過程の副産物として、転んでもタダでは起きない(が、歩き方そのものが危なっかしい)COSSAN=(株)ミネルバ代表の柴田氏は、義勇軍の形で個人的に救援に来ていたコミケ準備会更衣室統括、そしてコスプレチッタ幹部でもあるT氏との間に、したたかにも協力体制を築いてしまう。

 以後、営業力の強いCOSSANに、運営力の強いコミケ更衣室系スタッフ諸氏の経験値が(各々、個人的に)加わった。
 いわば経済ヤクザに、任侠ヤクザが手を組んだ。
 ここに恐るべき、“コスプレ界の広域指定暴力団”とでも言うべき団体が誕生していたのであった。

 春のコミケSPだけを見れば、対外的にはコミケとコスサミが直接コラボした…ように見えるが、実際にはコスサミの国内予選はコスサミ実行委員会ではなくCOSSANが請け負っており、コミケ準備会の直接の相手はあくまでCOSSANとなる。
 つまり、いきなりコミケ準備会とコスサミ実行委員会が繋がったのではない。
 コスサミの国内予選を管轄するCOSSANに、準備会の更衣室系スタッフらが独自に協力してイベント開催を重ねるという、最高のお膳立てと橋渡しがあった上で、「コミケットスペシャル6内でのコスプレサミット国内予選開催」という運びなのである。
 癒着という意味では無く、信頼関係という意味ね。

 書いてる時点でいま10月。既に3月末のコミケSP開催から半年。
 コスサミも予選どころかチャンピオンシップまですっかり終わってしまったこの時期に始まるこの連載は、仕事上の多忙がホンのちょっとだけ和らいだ駄チワワが、今年挑戦した若者たちの姿と、一連の戦いの記憶を残し、そしてまた酷くなる運営のグダグダを、世に問うためにキーボードを叩くのであった。

 グダグダなだけだ。
 ヤラセとか、出来レースなんて話じゃないんだよ。
 ただ、グダグダなだけなんだ…
大塚家具プッシュ
 りんかい線の案内板とTFTビルの大塚家具をプッシュする謎の中年。
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 当日の朝、景気づけのためについに封印を解いた、保存ペヤング。


【 ドキュメント:世界コスプレサミット2015日本代表選考会 [3/29コミケSP予選編] 】

 幕張メッセに朝8時。
 時間帯こそ最初に知らされていたものの、広大な幕張メッセ内でどこに集合すれば良いのか?
 結局、集合場所の具体的な連絡が来たのは、前日20時を回っていたのでした。
 当然ながら土地勘の無い人間にはすぐには場所が分からず、遅刻しながら集まったのは、1チーム欠席により4チーム。

 この日、コミケSP6内には通常コミケでは行えないステージ関連の企画が詰まっておりまして、リハーサルは各チーム1回ずつ短時間で、また衣装審査などもありまして、間延びしながらも、バックステージの共用控室で本番の12時を待ちます。
 コミケSP一般開場は11時なので、一般入場から入って最初に更衣室に向かってしまうと、まず予選開始時刻には客席まで辿り着けません。レイヤーの友人たちは口々に「間に合わなかった」「行ったら終わってた」などと言ってきましたが、本当は我々のステージを視界に入れたくなかったのだろうと疑心暗鬼。
 さてさて、それでも通路を行くコミケ参加者が足を止め、立見は盛況、観客動員は約200人超?

[この日のステージ審査員]
・乾たつみ コスプレサイトCure管理人(最多登場審査員)
・池ノ谷賢 アニメイトコスプレブランドACOSプロデューサー(乙女男子)
・筆谷玲音 コミケットスペシャル6準備会コスプレ広報(公式姉弟キャラの弟)
・amini   WCS2014日本代表チーム婆娑羅(BASARAひとすじ!)
・媛次あずま WCS2014日本代表チーム婆娑羅(とうらぶ始めました)

[MC]
・兼田玲菜 女優
・岡倫之 ブシロードクラブ(7月の格闘技大会・巌流島にて見事勝利)

[コスサミ予選の主なルール]
※ 日本産のアニメ・漫画・ゲーム・特撮のコスプレである事。
※ コスプレイヤー二人一組、2分30秒のパフォーマンスを披露。
※ 衣装・小道具は自作のみ。大道具は3つまで可。
※ 大人の事情で集英社作品は不可。
※ ステージ審査員は、衣装のステージ映え5点/パフォーマンス5点/原作リスペクト5点、つまりMAX15点をそれぞれ持っている。
※ 開始前に別室で衣装審査が有り、5点×ステージ審査員の人数分がベース点として付与される。つまり衣装審査員はステージ審査員とは別に、この日だとMAX25点の強い権限を持つ。(この日は柴田氏と乾氏が一緒に付けていた)
※ つまり今年からパフォ点が10→5点に下がり、衣装の出来が衣装審査5点+ステージ衣装映え審査5点という、より勝敗を左右する基準になった。

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 開会宣言には、滅多にメディアに姿を出さないコミケ準備会の市川孝一共同代表!
 「大同人物語」で川原景虎のモデルとしてもおなじみ。
 肝心の予選ステージは見ずに去って行ったよ…
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 着ぐるみにはありがたい、階段ではなくスロープ式のステージ入口。
 今年から、WCSおもてなし学生実行委員会のメンバーが地区予選段階からボランティアで協力に入っており、大道具など運んでくれたり、ステージでの写真も頂けた。ホントありがたい。
 
× × × × × × × 

■「曇天に笑う」
黒白-KOKUHAKU-(TARO/桜崎つかさ)
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 殺陣と演舞を合わせたパフォーマンス。
 アニパフォ他にも多々出演しているだけあって、安定感と見せ場のバランスが良かった。細かい所だと、動いた際にも結ったウィッグのなびき方がキレイ。
 惜しい事に、この4チーム中では原作の知名度が低いので、再現シーンが伝わっていないのだろうと思う。

■「鏡音リン/レン」
うさみけ-usamikeP-(宇都宮なお/坂水ありす)
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 愛らしいダンスパフォーマンス。
 ピタッて揃うんですよ!これ、ダンスやった事ある人なら分かると思うけど、止める所をピタって揃えて止めるのって難しいんです。場数踏んでます。
 多分コスサミの基準だと、衣装が簡易なのは点数付きにくいんですけどね。
 後に9/26の東京ゲームショウでのCosplay Collection Nightにもお二人で出演してました。

■「スーパー戦隊シリーズ」
チーム大連立(駄チワワ/寅)
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 今年もやって参りましたチーム大連立!
 車掌ナレーション付きのトッキュウジャーED「みんなの列車コーナー」パロディで、ゲキトージャ&エンジンオーの戦隊ロボがビッグサイト基地を変形させ、りんかい線レッシャー・ゆりかもめレッシャーが発進。
 最終的には「ビッグサイト改修工事により今後のイベント開催が未定」とアナウンスされ、ショックで手に持っていた番組スポンサーの看板を落としてしまうオチ。
 コミケSPのステージにビッグサイトを建てた挙げ句、手前のTFTビルには大塚家具ショウルームの看板まで貼ってあるという、今年もまた悪質なイタズラであった。
(真ん中の写真で、審査員の乾さんが頭を抱えている気がしますが…)
動画: https://www.youtube.com/watch?v=_as5fYEfdwc

■「マギ」
琉演(マヒオ/万鯉子)
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 2006,2013日本代表チーム経験者の万鯉子さんと、「COSPLAYMODE SHOWCACE」のマヒオさんによる強力タッグ登場!
 白龍(顔の火傷は木工用ボンドでトントン塗ってました)と母・玉艶との愛憎劇。
 剣劇を挟んで、母の首をぶった切って(大道具の幕から背後に抜けて隠れるギミック)、生首を手に高笑いして終わるという、何とも後味の悪ーい中二病エンド。
 写真で伝わるか分からないが、表情の芝居や、動きのキレが、既にイッちゃってるレベルの作り込み。
 個人的に何度かステージ系イベントで見ているけど、マヒオさんはほぼマギの白龍or紅覇のコスプレで登場していたハズ。
動画: https://www.youtube.com/watch?v=T2rPqK-KFao

(ステージ写真協力:闇猫まぐ/WCSおもてなし学生実行委員会の方々)
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 4チーム終演後、ここで昨年の日本代表チームBASARAのお二人がステージ上がって、集計中の場繋ぎ的なトーク。
 そして結果発表は、「マギ」琉演!
 いやもう、半年前なんで知ってるでしょ、みんな。
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 まー、終わるとフゥーッとピリピリ感が抜けて、フツーに話せるようになるんですよ。この時間が一番、勝ち負け関係無く、気持ちが軽くなってられる時間帯なんですけど。
 コスプレで動的パフォーマンスを行うレイヤーが日本ではまだまだ少数派なので、外からは一個のコミュニティ=どうせ身内だろ!的に思われがちだけど、実はそうでもなく、知らない人は本当に知らないし、話す機会は限られているのである。

 多分初めてちゃんと会話したであろう(舞台前は一人で精神集中してるタイプなのでとても話しかけられない)マヒオさん曰く、
「もし今後、マギが舞台化されていっても、白龍だけをフューチャーした舞台って無いと思うんですよ。だから、自分の見たい物を自分で作りたいっていう、同人的な発想で…」
 …という熱心な話を、誰も居ない方向の空間へ向かって語っていたので、正直少し怖かったです。

× × × × × × × 

 終わった後、客席で見ていた友人から言われた事は、「点数で競ったら、あのチームが勝つのは納得」
 僕もそうだと思います。
 このコスサミ予選は、コスプレで勝敗を競う事に是非はあるけれど、とどのつまり“競技”化したコスプレなんですよ。
 審査員に高い点数を付けさせるために、衣装もパフォーマンスも、より努力やアイデアを振り絞ったチームが勝つのは当然です。
 我々チーム大連立はまだ努力が足りなかった。僕が業務多忙により準備時間が取れなかったっていう言い訳はあるけれど、でもコスサミに向けて時間や環境を作る所から、既に戦いは始まってる訳です。

 本当はもうチーム大連立としては昨年WCS2014で終わり、予選には出ないつもりだったものの、5年に一度のコミケSPのステージで行う予選会だけはどうしても出ておきたかった。でも予定空いてる人も居なかったので、結局また直前で寅さんに付き合ってもらい、着ぐるみも過去の補修で流用してしまった自分の、スケジュール時間管理能力というか、覚悟の面からして足りなかったね。
 …なんか、半年前の事なのに思い出してたらムズムズしてきちゃった。

 綺麗事を言っても仕方無いんで、ハッキリ言って、まー悔しいですよ。
 コミケSP予選なのに、となコス派(ビッグサイト隣のTFTで開催、となりでコスプレ博の意味)を1名勝利させてしまった事!

エンジンオー&ゲキトージャ
 まるでオモチャ屋の在庫ワゴンセールもとい、オモチャ箱のようなチーム大連立の勇姿。
 ビッグサイト前、TFTビルの大塚家具の看板まで無意味に再現されている事に驚くだろう。

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 共用の控室には巨大パネル。
 コミケSPは一ヵ月後に同じく幕張メッセ開催のニコニコ超会議とも連携しており、メッセージを書いたパネルが超会議に展示された。
 コスサミ予選だけでなく、前日のCureのショウ出演者のコメントも並んでいる。
 ここでも大塚家具の久美子社長へメッセージが。半年して見直すと風化してるのだが。

■予選会としての反省点を挙げる
・ 集合時間こそ前もって伝えられていたが、具体的な集合場所が伝えられたのは前日20時過ぎ。遅い。
・ 我々の演技スタート時、非常に小さな音で始まってしまい、冒頭のセリフなど殆ど聞こえていなかった。前のチームの最後に音響スタッフがフェードアウトで音 を小さくしたまま、元に戻すのを忘れていたせいか。これは競技である。単なるショウではない。こんな裏方の凡ミスをやられてはたまらない。同様のミスがあった場合は一旦ストップさせてやり直すべきでしょう。
・ 今年度の予選はパフォーマンス点の上限が5点に下げられていた。このため、パフォーマンスよりも衣装点の差が勝負に直結しやすくなっていた…という事が出場者に一切アナウンスされず、開始後にMCの説明コメントで知る。配点基準の変更があったなら、出場者にあらかじめ伝えるべきでしょう。
・ 今回、出場者全員に参加賞としてスタジオBOOTYの無料券が配られた。こういった気遣いは非常に嬉しい…けどね…BOOTYって、男性のみの入場お断りなんだわ…。

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 イベントとしては、大成功だったと思う。
 コミケSP内のステージを借りられた事で、広報も早くて大規模に、COSSAN側では金銭的負担を最小限に、観客もなんだかんだで見ていく人は多かったので。
 小さな自慢は、演技終了後に僕がTFTの大塚家具の看板を持ちながら「久美子社長、再任おめでとうございます!」と最先端の時事ネタを言った瞬間、この予選会で一番の笑いがドッと起きた事ですが。
 …いやもう、笑いを取るための大会じゃねーですが。誰か新しく、コスプレ演芸大会を企画しないかな!ウチ結構、上の成績取れると思うんだけどな!
 また何より、終演後に他チームやスタッフらと話せた事で(去年の超会議予選ではすぐ控室を退去させられたので)、横の繋がりが出来た事は、出場者として嬉しいし楽しかったです。

 出場チームの少なさは、おそらく前日のCure Cosplay Collectionの方が先に(2014冬コミのカタログ上で)告知されていたせいだろうか。
 CCCは今日ではなく純粋なショウなので、人数制限やルールがゆるく、勝ち負けも無いCCCの方へ、パフォーマンス系レイヤーが流れた、という理由が絶対あるでしょ。
 正直、CCCとコスサミ並んでて、“ルール下で点数を競う”コスサミ予選の方に出るメリット(イヤな言い方だが)、無いもの。
 それでも少数ながら、4チーム個性バラバラなのが集まった事、良しとします。

 我々は我々の今できる事をして、コミケSPというお祭りの中で、コスサミの予選会という一つの時間と空間を作ったのだった。


 でも、この時はまだ、誰も知る由もありませんでした。
 このコミケSP予選が、今年のコスサミ予選のスタートであり、そして、頂点だった事を。
 一言でいえば「瓦解」。それが何故起こっていったのか。
 今年の予選レポは書き始めが既に半年遅れなので、“競技としてのコスプレ”に関わり、駆け抜けた人々の記録としてだけでなく、その事件史的な観点から探って参ります。
 いち出場者として、そして熱心な観戦者として。

 ヤラセとか、出来レースなんて話じゃないんだよ。
 ただ、グダグダだっただけなんだ。


→【ドキュメント:世界コスプレサミット2015国内予選 [5/10大阪予選・5/17愛知予選編]】へと、続く予定。


【写真特集】コミケSP「世界コスプレサミット予選」コスプレ&コンパニオン-マイナビニュース
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