「コスプレに年間平均○万円?少なすぎ!誰にアンケート取った?カメラだけで○万円、遠征費で○万円、今作ってる衣装だけで○○万円…絶対おかしい!」
 
 …みたいな荒れ方が、もはや毎年の風物詩になってしまいました。他ジャンルでも同様。
 通常は年末に起こりますが、今回は年始に起こりました。だいたいは矢野経済研究所(←公的な機関ではありません)のオタク市場調査が発表された後、ITmediaが記事にしたりTVで取り上げられたりするタイミングで起こります。
 そして過ぎ去ってしまったので、ブログ書いてる間に記事としてはタイミングを逸していますが。

 私はたびたび沸騰するこの問題は、第一にアバウトな調査を続けている矢野経済研究所、第二に元の情報をちゃんと読まずに脊髄反射してしまうオタクの側、どちらにもあると思います。


 しかし。
 まず大原則!
 矢野経済研究所の統計は一人頭の「年間のコスプレ」に使った金額ではなく、あくまで「年間のコスプレ衣装の購入」に使った金額をネット上のアンケートでとっています。
 いいですか?「コスプレに使った金額」じゃありません!「コスプレ衣装の購入金額」の年間平均額なんです!!
 だから自作代やカメラとか遠征費は入ってません。衣装の購入にかかった金額です。
 そこ間違えちゃダメ!!

 …という話を毎年毎年毎年毎年ツイッターで誰かしらがやってますが、みなさんすぐ忘れて翌年も同じ話を繰り返しておりまして(今回は友人知人らまで…ショックやで…)、もうブログに書いておきます。
 ちなみに矢野経済研究所が出してるオタク市場調査の本、概要はネット公開されてますが、全部読もうとすると購入には15万円かかります。国会図書館でも行ったら読んでみようか。

矢野経済研究所201801

[本稿における引用元]
・2018 クールジャパンマーケット/オタク市場の徹底研究 | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
自分を何のオタクと思う、あるいは人からどんな分野のオタクと言われたことがあるかを尋ねると、「漫画」「アニメ」「アイドル」が上位3位までを占める

https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2047
・2018 クールジャパンマーケット/オタク市場の徹底研究 | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所 調査資料詳細データ
https://www.yano.co.jp/market_reports/C60109800


【矢野経済研究所の調査の問題点】
1. 調査方法や対象がわかりにくい。調査を始めた初期の名目は「コスプレ」表記だったが、後に「コスプレ衣装」表記になった。コスプレ全体にかかる金額とコスプレ衣装の購入金額ではまったく違うのに。
2. 調査方法そのものも、webアンケートなのでおかしい点がある。後述する。
3. コスプレ村には一次情報を確認しないタイプの人が結構いて、「コスプレに年間○万円?少なすぎ!」みたいな伝言ゲームが起こりやすい。
(繰り返すが「コスプレ」ではなく「コスプレ衣装購入」の年間平均額と表記しているのに、そこを読み飛ばしてしまう…)


【矢野経済研究の出す3つの数値の注意点】
 ここではあくまでオタク市場調査の中から「コスプレ衣装」の調査を例にして話します。

○「市場規模」
 Acos(アニメイト)、コスパ、バンダイといった公式ライセンス品のメーカーに加え、コンパニオン衣装やパーティグッズのメーカーも対象にした、企業への聞き取り調査を合算
 なので自作代や業者製の非公式衣装は入っていないが、パーティグッズなども入っているのでインフレ気味に出る。しかし数字そのものはインフレ気味だが、毎年同じ手法で同じ企業を対象に調査しているので、年度による増減の傾向くらいはわかる。
 最盛期は2015年で423億円とされた「コスプレ衣装」の市場規模は、2017年に350億円程度まで下がった。これはコミケのコスプレイヤー更衣室登録数の減少(2015年から2017年までの2年間で約10数%減)とほぼ同じなので、金額は大きめに出るものの、増減の傾向は割と実態に近いと思われる。

○「一人頭の平均額」
 ネット上でのアンケートで調査。約1万人のオタクが対象。
 しかしコスプレイヤーの割合はオタク全体の数%程度なので調査の絶対数が少なく(コミケ三日間50万人超えでも、コスプレイヤーは三日間で3万人を超えた事が無い)、またwebアンケートだとガチのコスプレ以外にハロウィン勢なども対象に入ってしまうので、それを含めてから平均すると金額は低めに出る。そして年度ごとの変動が激しく、数値が乱高下しているので、ぶっちゃけ信用度は低い。
 毎年おかしいおかしいとツッコまれるのは、この数値ですね。

○「人口」
 前出のアンケート回答者の中から各ジャンルの割合を出し、それをオタク全体の人口比(矢野経済研究所では“「オタク」を自認する、もしくは第三者から「オタク」と認知されている層”というかなり広い範囲をオタクとして定義している…)に拡大推計するという超強引な方法で出している。
 はっきり言ってまったく信用ならない数字。だいたい、衣装の市場規模÷一人頭の年間平均額、で出している訳ではない。だから一人頭の平均額自体がガバガバなんだけど…
 コスプレSNSの最盛期でもレイヤー登録10数万人だったので、2016年の段階でコスプレイヤー人口50万人、2年後の2018年で27万人に半減って、ありえないだろう…。

× × × × × × 

 なお、コスプレイヤー人口/衣装購入年間平均額の過去3年間(カッコ内は企業聞き取り調査による衣装市場規模)の推移は…
 2016年:50万人/年間18,526円 (390億円)
 2017年:43万人/年間7,832円 (350億円)
 2018年:27万人/年間25,608円 (未発表)

…ね?年間の衣装購入金額で、数値が3倍くらい乱高下してるでしょ? おかしいよね。
 よく見て!2016年を例にとると、年間の衣装購入金額18,526円×コスプレ人口50万人=約93億円になる筈でしょ。なのに衣装の市場規模は390億円でしょ。合ってないでしょ?
 逆に市場規模390億円を一人平均18,526円で割ったら、コスプレ人口210万人(!)になっちゃうでしょ。
 人口が推計で、平均購入額がwebアンケート調査で、衣装の市場規模が企業への聞き取り調査なので、数字が全然つながらないんですよ。

 でも、ここでこんな事を語っても、来年も再来年もまた、誰かが同じ事を言い出すでしょう。
 「コスプレに年間平均〇円って、絶対少なすぎ!」みたいに怒っちゃってる人を見かけたら、教えてあげてください。それは年間でコスプレ全体にかかる金額ではなく衣装の購入金額だし、矢野経済研究所の調査方法も疑わしい点があるよ、と。冷静に。

× × × × × × 

 ちなみに、自作費用、遠征費、カメラ代etc…を含めた、真のコスプレにかかる年間平均額ってどれくらいだと思います?
 
 答え:調べようが無いです!
 だって、カメラはコスプレ撮影以外にも使うし、手芸屋やホームセンターのレジ係がいちいち購入目的をコスプレかどうか判断してる訳じゃ無いですし…
 ベテランのガチ勢が一から自作して海外ロケとか挑戦したら簡単に100万円くらいかかる一方、お年玉を握ってアニメイトで買ったジャージを着て宅コスする楽しみ方もありますから、平均ってのはねー…うまく出せないんですよ。
 コスプレイヤー向けSNSでアンケートとると、使用金額の大きいガチ勢の人たちが積極的に回答したがっちゃうので、これもアテにならないし…。


【今回のポイント】
・矢野経済研究所のコスプレ市場調査は、「一年間でコスプレにかかる金額」ではなく「一年間でコスプレ衣装の平均購入金額」である事を見落としてはいけない。
・上記の調査はwebアンケートだが、対象となるオタク1万人の中でコスプレイヤーは数%しかいないと推測され、またハロウィン勢なども混ざるため、平均すると低く出る。また年度による乱高下が激しく、アテになならない。


~ここから先はオマケなので本題にはあまり関係ないです~

・コスプレ以外でも矢野経済研究所の調査はなんか変?
矢野経済研究所「アイドル」オタク推定人口/一人頭の年間消費額(平均)
 2016年:224万人/79,783円
 2017年:264万人/88,252円
 2018年:280万人/103,543円
↑ この2年でアイドルオタクの人口が2割以上増えてるとはとても思えないですよね。むしろアイドルブーム末期ではないですかね…。
 これもwebアンケート調査なので、あんまりアテにならないです。それともアイドルオタの人だったら納得する数字なんでしょうか。
 
・「職業:コスプレイヤー」を世界中に。 世界70カ国に展開するグローバルコスプレプラットフォーム「AMPLE!(β)」がフルリニューアル。クローズド版では100件以上のサポートが流通!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000026.000028340.html

↑ AMPLE!ってのはホリエモンが出資したコスプレSNSで実際あんまり使われてないんですが、新たに仮想通貨事業に参入しようとしておりまして…このプレスリリースには「コスプレ関連市場1300億円」っていうトンデモ数字が…。
 これも矢野経済研究所の数字を基にしていて、コスプレ衣装だけだと350億円ですが、そこに同人誌市場やメイド関連ビジネス市場まで盛り盛りに盛りまくってこんなインフレ数字になっています。
 ビジネスとして仮想通貨への投資を考えてるみなさんは、こんなウソ数字を真に受けちゃダメですからね。

 どうでもいい話ですが、僕は矢野経済研究所の調査に懐疑的なのは、最初に「2011年のコスプレ市場規模400億円!」が喧伝された後に日経トレンディで始まったコスプレ業界の連載記事を楽しみに読んでたのに、たった3回で打ち切られてたからです。そこまで景気良くないと思うよ。

市場は400億円超!? コスプレビジネス最前線 日経トレンディ(2013年・全3回)

↑ 今思えば日経トレンディが連載記事タイトルに「!?」って付けてたのって、矢野経済研究所の調査に半信半疑だったからだろうな…さすが日経…昨今のプロゲーマーやプロユーチューバーを新たなビジネスとして特集する一方、プロコスプレイヤーに関してはスルーしてるだけあるわ…危ういものに対して鼻が利くって素晴らしい。
 
 以上、矢野経済研究所のこんなアバウトな統計調査は、厚生労働省の統計局が許してもポワトリンが許さないというお話でした。