見てきた!
 以下、劇場版エヴァンゲリオン第二作を具体的なネタバレは避けつつ、ちょっと長くて辛口めの感想。
かつて『伝説巨神イデオン 接触編・発動編』のロマンアルバムにて、富野監督が自作を「作劇的には0点。起承転結がなっていない」と評したのを思い出しました。

 このエヴァ二作目も、まさにそれです。思い入れを差し引いて客観的に見ても、作劇が出来ていないというか…まずお話として練られていません。
 TVシリーズの展開を引き継いで組み替えた世界でありながら、然るべき謎解きも無く、ショッキングなシュチュエーションとシーンを繋いだだけでは、これはハッキリ言って一個の作品として成立していません。
 上映開始直後からネット上では酷評され、毒田モロ男に「エヴァブーム終了!」とまで言わしめたこの映画ですが、しかし、一個の“作品”としてよりも、むしろTV版からこの劇場版までの一連の“ムーブメント”の末尾として捉えると、これは非常に見るべき部分が多くなります。


 話が前後しますが、エヴァブーム当時の時代性にまず目を向けてみます。
 90年代中期、日本はいわゆる“失われた10年”の真っ只中です。デフレ経済や金融政策の失敗、異常犯罪による社会不安が深刻化して、それまで漠然と有った筈の価値観や未来への希望が崩壊していく過程です。
 この暗い世相にあって、もはや現実世界に希望など無く、幸福は個人の内なる世界にのみ存在する…とでも言いたげな『エヴァンゲリオン』の世界観は、それまでのアニメファン層をも越えて圧倒的な支持を獲得します。
(余談ですが、後に『ザンボット3』LD-BOXの解説書なんかで富野喜幸監督はエヴァを徹底的に否定していて、「病人が病人を増やしている!」というのも実は非常に的確な表現だったと思う)

 ですが動画サイトなど無い時代に、VHSやLD(DVDではない!)が相次ぐ発売延期→発売日未定となった事で映像を再見する事が出来ず、ファンの枯渇感が煽られました。
(伊集院光のラジオで「一人20元中継スペシャル」に緒方恵美が出たり、裏番組の福山雅治が一回もエヴァ見てないくせに声優をゲストに呼ぼうとした事への反発として、自番組の「アニメスペシャル」に林原めぐみを呼んで「不思議少女パイ毛ちゃん」を演らせたりしてた事も、よい思い出です)
 それでいて、曖昧に終わったTVシリーズの最終回から1年を経た97年3月公開映画『シト新生』が諸般の事情…というか庵野監督のモチベーション的な問題で完結せず、いつの間にか日本全国を巻き込んだブームの中、ファンの苛立ちも沸点に達した所へ、ようやくこの映画第二作の公開です。

 しかし、前述のようにストーリーは有って無い様なもので、ひたすらショッキングなシーンが連発され、登場人物の多くは死に、期待された謎解きも殆ど行なわれずに、陰々滅々としたままラストまで突っ走りました。これではファンが冷めても仕方ありません…が、しかし。
 映画館を出た後で思ったんですけど、やはりこれは庵野秀明が意図的に、つまりファンの望まない展開を「分かっててやってた」んだろうな…という事。

 例えば『ガンダム』はヒットし過ぎたために富野監督の手を離れて、他の多くの人間の都合でいじられていったのを、庵野監督はよく知ってるわけですよね。 だから、自分の手の届くうちに、自分自身の手で、『エヴァ』にトドメを刺したかったんだろうな…と。
 そう考えると劇中で不自然に映画館のファンの実写映像を入れたり、ラストカットでアスカの「気持ち悪い…」っていう後味の悪い台詞でシメたり、わざとファンの神経を逆撫でたのも、全部納得いくんですよね。
 だから映画作品としての出来そのものを論ずる事にあまり意味は無く、あれだけの大ブームを一気に終息させた事実こそ、まさに思惑通りだったんじゃないか、と。

 …でも、惜しむらくは名曲「魂のルフラン」はむしろこっちの映画の為に作られた曲なのだから、続けて使って欲しかった。あの曲は第1作の量産型エヴァ軍団の飛来シーンではなく、崩壊した世界の新たなアダムとイブの為の曲だと思うんだよなぁ…。


 そしてその後、悪い影響と言うかエヴァ後遺症と言うか、この時期の多くのアニメが、やたら鬱展開→謎解き放棄、っていう悪い流れになっちゃったのはイカンかったと思うなぁ。“やったモン勝ち”が許されるのは最初の一人(つまりエヴァ)だけなんだけど。
 そこら辺のカウンターカルチャーとして90年代後半に一定の支持を得たのが『勇者王ガオガイガー』とか『星獣戦隊ギンガマン』だったんじゃないかな?

 で、やっぱり“作品”ではなく“ムーブメント”としてこの映画は捉えられるべきだと、12年経った今の方がより確信しておる次第でございます…。

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 以上、映画『Air/まごころを、君に』の感想でした!
 …???
 最初から言ってるじゃん?
 【劇場版エヴァ第二作】の感想、って。

 ハイ、ウッカリ最後まで読んじゃった方はおつかれさまでしたー☆



※ 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版・破』を見たのはホントです。ただしネタバレしたくないから書きませんが。引力光線!マットビハイクル!←ホラ。

※ ところで、ガイナックス史においてエヴァに対する『グレンラガン』の位置って、サンライズ史においてイデオンに対する『ザブングル』の位置だと思うんだ。

※ そういえばアタシ、よく井上敏樹の作風を他人に説明する際に、“野島伸司が書くエヴァンゲリオン的なもの”って表現してた事を思い出しました。何年かぶりに。