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実相寺昭雄展 ウルトラマンからオペラ「魔笛」まで

 実相寺昭雄。(1937-2006年)
 TBSから、創世記の円谷プロに出向、ウルトラシリーズで異色作と呼ばれる回を多く担当した監督。
 独立後も特撮ものに限らず数々のTVドラマや、CM、舞台の演出も手がけてきた、奇才・天才。

 光と影のコントラストを多用し、画面の奥行きを立体的に使い、時に俳優の顔を全く映さない構図のままドラマを進めていく演出方法“実相寺アングル”やら、夢と現実が交錯する不思議な世界観やら、そこは語っても語っても終わらなくなるので、ざっくり概要だけ説明しておきます。

 よく知らないという人でも、仮にエヴァンゲリオン世代なら、実相寺監督作品を見れば「あっ?」と思う筈。
 庵野秀明監督は意図的に、この実相寺アングル他の演出方法を踏襲しているのは、常識ですね。
(ダイコンフィルム時代に自主制作してた怪獣映画って、さらにバリバリに影響されまくってるのが見える)
 ウルトラでは2005年の「ウルトラマンマックス」で「胡蝶の夢」「狙われない街」が実相寺作品の最後だったか。

 故人となられて早5年。
 「実相寺昭雄展」という企画が、9/4まで川崎市民ミュージアムで開催されているので、夏の最後の思い出にと、滑り込みで行ってきました。
 感じた事をつらつら書いてみます。

× × × × ×

 
 まず、入口をくぐると、2m超の棲星怪獣ジャミラのスーツがどーん!
 ジャミラはその特異な性質上、怪獣ショー等には出演しないので、スーツを間近で見られる事は貴重です。
 宇宙飛行士ジャミラの怨念と悲劇を描いた「故郷は地球」は、脚本・佐々木守、監督・実相寺昭雄の盟友コンビが放った、代名詞ともいえるエピソード。
 後に宣弘社でこのコンビが作った「シルバー仮面」でも、主題歌のタイトルが「故郷は地球」だったりと、このフレーズもお気に入りだった模様。

 そしてその脇には…「1960-1993 人類の夢と科学の発展のために死んだ戦士の魂、ここに眠る」(英語)の碑文が刻まれたプレートが…。
 これ現存してたのか!?

 場内には、実相寺監督が所有していた台本や絵コンテの現物がズラリ。
 小学生の使う工作用紙の裏のマス目を使って、シーンごとのBGMや効果音の指示を手書きしていたのが印象的。
 コンテやメモはノートにビッチリ書かれていたものを、見開きに置いて展示しているので、実際のホンの一部しか見る事は出来ませんが、それでも貴重な…歴史の一部を垣間みてる様なドキドキ感がありました。

(最初の絵コンテだと、イデ隊員は碑文の前に跪いて、それを横から撮る構図だったんですね。実際にはイデのシルエットだけで「犠牲者はいつもこうだ。文句だけは美しいけれど…」の台詞で終わりますが)
(このイデのかすれた台詞は諸説ありますが、脚本上では偽善者・為政者ではなく、「犠牲者は…」が正解らしいです)
(なおイデ役の二瓶正也氏はCS「ウルトラマン情報局」で、「実相寺さんは役者を、“ものを言う大道具”みたいに思ってて、それが役者として勉強になるかと言えば、そうではなかった」と回述していて、そりゃそうだ。重要シーンでシルエットしか映さないんだもの)

× × × × ×

 そして、後半に展示されている絵のうまさ。
(上記のポスターにも、シーボーズの絵が使われている)
 大判の画用紙を使った水彩スケッチは、自身の作品に登場したジャミラ・ガヴァドン・シーボーズ・メトロン星人といった怪獣だったり、どこかの町の商店街路面電車が生き生きと描かれていたり。
 また絵はがきでは、動植物やポケモンやゾイドや仮面ライダーなどなど、かなり高齢になってからも貪欲に、時代を象徴するキャラクター文化に食いついていた事が伺えました。
 笑ったのはアメリカ版ジャミラの絵はがきに「お前はジャミラでは無い…」という一筆が添えられていた事。
(「ウルトラマンパワード」版では、ジャミラは人間の姿に戻れる)
 これら皆、一冊の画集としてまとめたら、ゼッタイに買ってしまう出来の作品ばかり。

 中には初期円谷プロデザイナーの成田亨さんの原画に似せたジャミラの絵なんかもあって、どうやらこのお二人は関係は悪くなかったんですな。
 成田氏は永らく円谷プロからキャラクターの使用料が支払われなかった事から、円谷プロや関係者の多くとは絶縁状態のまま亡くなったのだが。
(2007年の成田亨展は、mixi日記で書いていました。くわしくはこちらを

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 他、映画「帝都物語」のメモ等も一部展示されていたけど、この時の絵コンテは樋口真嗣氏でした。

  もう一つ圧巻。モーツァルトのオペラ「魔笛」の舞台衣装(2005年)も展示されていて、演出担当の実相寺氏は「生きたフィギュアの様な世界観にしたい」 というテーマで漫画家の加藤礼次郎にデザインを発注、そしてこの、何となくアニメフィギュア調の、コスプレチックな衣装となったそうな。

 そして出口の前に飾られていた氏の個人コレクションの中に、沢山のミニカー・ぬいぐるみ・けろけろけろっぴ(お気に入りらしい)…に混じって、綾波レイ惣流・アスカ・ラングレーのフィギュアが…。
 自分の遺伝子を受け継いだファン世代が作ったアニメが、社会現象にまでなって、そのキャラクターフィギュアをコレクションに加えるのって、どんなお気持ちだったんでしょうね…。

実相寺昭雄展 インターネットミュージアム
(いくつかの展示物の写真が掲載されている!)

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 もっと…早く…観に行っておくべきだった…。
 今週日曜、9/4までの開催なので、行ける人は武蔵小杉か小杉駅から、バスで川崎市民ミュージアムまで向かってください。
 あるいは同様の展覧会がどこかであったら、行って下さい。
 くどい様ですが、ジャミラのスーツ、いやそれ以外の色んなもろもろが、間近で見る機会の少ない、貴重なものです。

 あぁ。
 最近はようやっと、ウルトラに関わられた人達が、オタクだけでなく広く世間一般を相手に、文化人として認められてきたんだなぁ…。


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