コスプレイヤーにとっては戦慄のサイコホラー漫画「コンプレックス・エイジ」ですが、モーニングに第二話が掲載されるタイミングに併せて、先週の第一話が無料公開されています。
http://morning.moae.jp/lineup/280

 前回、同人作家にとっての「大同人物語」に出会った時の衝撃、と例えたら反応ありましたね。
 サブカルの世界を生きる人々の、光と影。
 裏側や影の部分がクローズアップされるって事は、表側が輝いて見えるからこそ興味を引くのであって、ひょっとしたらかつて80-90年代に同人誌バブルがあったように、今はコスプレバブルが起こってるんじゃねーですかねー…。

 んで、前回(第1話)の記事に続いて「描写が細かすぎてモーニング一般読者に伝わりにくいのが勿体ないので、作中で何が起こってるかをコスプレイヤー視点で、勝手に説明してみよう」という企画の第二回です。
(編集部や作者様からしたら、便乗して色々語ってるようなサイトの存在ってのはあまり気持ち良いものではないかもしれませんが…)

 次からは本当に2,3週毎にまとめよう…。今週ちょいとウィッグの話をしたい事情があったので頑張っちゃいましたが、楽しいながらも忙しくて、コスサミWEB予選の準備がそっちのけなのですよ。
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 さて、1話ラストで紹介されて知り合ったアヤ達と一緒にイベント参加する事になった主人公の渚ですが、複雑な心境を抱えつつ、話は進みます。


「盛っておくわよ」
 鎖骨から胸にかけての地肌のカーブと、衣装の膨らんだ胸部分とのカーブが合っていない場合、そこに何かが詰められていると思ってほぼ間違いない。
 コスプレショップには胸パッドも売られているが、物足りない場合はさらに色んなものを詰める。
 2次元キャラクターに似せるためなので許してあげてください。
 豊満な胸と、キュッとくびれたウェストは同時には手に入らないんです。

「もう嫁に行けない」
 胸に詰め物をされるシーンで初心者の綾が言ってしまうのですが、それだと周りにいるレイヤーはみんな婚期逃した事になるので…。

「スプレー持ち込み禁止」
 90年代までは低価格のコスプレ用ウィッグが存在せず、イベント会場の更衣室や洗面所で、地毛を大量の整髪料とカラースプレーでセットしようとして、周りを汚す事件が多かったために生まれたルール。
 キングオブファイターズ(K.O.F)がブームの頃は、各地の更衣室や洗面所の壁に赤いスプレー跡が残り、「あぁ、ここに庵がいたんだな」と分かった。
(この経緯を知らずに制汗スプレーや冷却スプレーまで禁止だと思い込んでる人もいます)

ウィッグ運搬用ダンボール
 家でセットしたウィッグを運搬中、型くずれ防止のために発展した手法。人間の頭部を模した首マネキンにウィッグを被せ、丸ごと大きめの箱に入れて手持ちで運搬する。基本は円柱型だが、劇中の様な大型ウィッグはダンボール使用。
 さて本来なら美容師見習い位しか使用しない首マネキンであったが、増加し続けるレイヤー人口に比例して需要が拡大し、ある時期から100均のダイソーでも発泡スチロールの首マネキンが市販されるようになったのは…おそらくこんな理由である。

(ウィッグを)煮たのよ」
 劇中で公子から詳しく説明されている通り、裏ワザでも何でもなく、割と広く行われている技法。
ポイント1: 染料の混色と、お湯との比率により、色や濃さを自分で調節できる。
ポイント2: お湯に入れて煮る事で、色が均一に行き渡り、染み込む。
ポイント3: 全国のお母さん達が、深夜にこの作業中の娘を見て、将来を不安視する。

 ウィッグは大小さまざまなメーカーから多種多様な商品が出ているが、キャラクター専用ウィッグというのは人気作品のメインキャラに限られるので、サブキャラはそれっぽい色や形のを探して、必要とあらば自分で染める。
 また重力無視の奇怪な髪型は自分でセット(むしろ造型)しなくてはならないので、衣装は既製品であってもウィッグだけは自作(改造)するという人も多い。
 最近はウィッグメーカーから専用染料が発売されている他、墨汁や紅茶やコーヒーでの染色や、お酢や塩を混ぜる方法も開拓されており、ノウハウに関する説明サイトは冷静に読むとシュール。
http://classewig.com/wig/blog/?cat=8
http://www.cosp.jp/chie_question.aspx?id=7380
http://www.cosp.jp/chie_question.aspx?id=1201
http://www.cosp.jp/chie_question.aspx?id=6157

「キレイに染めたろう」
 ネーミングは「染めQ」が元ネタかな。
 ただし本来の染めQは瓶入り染料ではなくスプレータイプ。ウィッグに使う場合はお湯に溶かすのではなく、スプレーで吹いて髪色をグラデーションにするために使う。
 粒子が非常に細かいため、ツルツルの素材でも表面の微細な凹凸に吸着し、質感を損ねない特長があるので、「万能塗料」とも称される。

「折角やるならとことんやった方が楽しいでしょ?」
 グッ…この表現は賛否が分かれるんだぜ…。
 もちろん徹底的にやり込む楽しさもある一方、そういった方々は主人公のように、ゆるく楽しむ層を否定してしまいがちなので…。
 高等な技術力と、初心者への気遣いとコミュ力、ブログ更新直後に5件コメントが付く発信力まで覗かせる公子は、あのグループの要なのかもしんない。

「今まで痛んだことのない筋肉が痛いです」
 もう少し上の年齢になると、筋肉痛が翌日・翌々日に延びます…。
 それだけ不慣れ&若いって意味か。
 特にJoJoやるとこの気持ち分かりますよ、きっと。

(ウルルは)わたしが持ってないもの 全部詰め込んだ様な」
 よく言われる「なんで本人に似てないキャラをやってしまうのか?」という一つの答えが、主人公の回想に詰まっていると思う。
 現実の自分が持っていないキャラクター性を、仮想の(仮装の)世界で求めている心理。
 なぜババアがアイドルキャラを?なぜ女子高生がオヤジキャラを?なぜ男性が美少女キャラを?…すべてこの言葉で説明が…
 グサッ!
 
ラストシーンの盗撮写真
 確かに腰辺りの高さから煽り構図で撮ると足が長く見えるのだが、地面スレスレから撮ってパンチラを狙うカメラマンは「ローアングラー」と称され、嫌われる+スタッフに連行される。
 当然だが「勝手に撮れた」訳は無く、ネットにアップしている時点でこの屁理屈は通用しない。
(わざとパンチラを撮らせてROMの宣伝をする露出系レイヤーも少数おりますが…)
 さて、主人公はどうなる…?

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 雑感。
 実際はネットで晒されるのも会場で聞こえるように中傷されるのも、都市部のイベントに参加してコスプレしてたら、殆ど誰でも通る道なんですけどね。目立つ人・レベル高い人ほど嫉妬を買う世界なので。
 主人公は初心者に厳しい一方で、初心者みたいなショックの受け方しちゃってるじゃん?という気もするのですが、この辺のトラブルをフフン♪で受け流しちゃうタイプのキャラではドラマにならないので、そこであんまり整合性を求めるのもつまんないと思います。一個ずつの描写はひたすら細かいです。

 漫画への感想を見てると、「主人公がイヤな奴で面白い」「主人公がイヤな奴なので見てられない」みたいな両極端があって、特に主人公の視点に同化して読むタイプの読者には、アウトでしょうね。
 そして「リアルだ」という見方がある一方、「ここが違う。あれが違う」というアラ探しもあって、実録ドキュメントじゃないんだから…。
 でもそれは、好き嫌いは別としても、フィクションでありながらドキュメントのように反応されてしまう位に、全体像がリアルであるという証拠なのかもしれませんが。
 だって最初からまるっきり荒唐無稽な話だったなら、小さな部分をあげつらったりしないでしょ?

 …不思議よねぇ。
 テニスコートで分身や竜巻起こす漫画はOKなのにねぇ。

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 そして今回は劇中に沿ってウィッグの話が多くなりましたけれども、奇しくもこの原稿を書いている5/30(金)、老舗コスプレショップのゼファーさんが事業縮小に伴い、閉店を迎えた。
 自分は着ぐるみレイヤーなので、メイク・ウィッグ・カラコンの類は全部すっ飛ばしてしまっているのだけれども、十数年前、地毛がまだ当たり前だったコスプレ黎明期に「質のシペラス、価格のゼファー」とも呼ばれ、ウィッグ普及に貢献したショップ&ブランドが一旦終了する事には、「おつかれさまでした」と言わせて頂きます。
 ちなみにゼファーウィッグは安さの代わりに耐熱ではないので、煮込むと縮れます。

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 ウィッグを使わないコスプレイヤーの例。
煮込むと縮れます。
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オマケ:勇者屋
 前回触れたように主に湾岸地区でイベントを開催している老舗団体の一つ。
 この漫画を非常に気に入ったようで、「マジカルずきんウルル」のコスプレでの参加者がいた場合には何かしらサービスする企画を打ち出している。
(読み切り版の方はゴスロリ服を燃やして処分するラストシーンに納得いかなかったようですが)
 


・ Dモーニング(電子書籍版)
・ コンプレックス・エイジをコスプレイヤー視点で勝手に超訳!その1 (第一話のまとめ)
 


コスモ昨年号にはウルル型紙付属。