オタク史的に解釈されるそれと、一般的にマスメディアで喧伝されるそれが、違っているのです。
※以降、コスプレ行為そのものの起源ではなく(ンなもんコミケ以前にSF大会や月光仮面や鞍馬天狗まであって遡りきれない)、あくまでアニメファンによる仮装を「コスチュームプレイ」「コスプレ」とした言葉の起源のお話です。
[1.1970年代後半コミケ準備会が起源説]
元コミケ準備会更衣室統括の牛島えっさい氏の回想によると70年代後半にコミケ準備会の女性スタッフからアニメの仮装をした参加者を「コスチュームプレイ」と呼ぶようになり、それが当時の米澤代表により略称として「コスプレ」になって広まっていった説。
[論点]
[2.1983年スタジオハードデラックスの高橋信之氏が造語した説]
高橋氏が編集に関わっていた秋田書店の月刊マイアニメ1983年6月号「コスチュームプレー大作戦」連載開始が起源とする説。また同誌に関わっていた後の映画評論家・町山智浩氏からの演劇用語や英語的におかしいという指摘で「コスプレ」という略語にした説。
[論点]
しかしマスコミでは2の高橋氏の造語説が「コスプレという言葉を生み出した男!」などというキャッチフレーズとともに紹介されます。近年では2010年の東京ゲームショウのナイトステージで行われたコスプレコンテストで高橋氏が出演したり、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」2018年6月の高橋・町山氏の出演回でも同様に扱われています。
米国や韓国など海外のイベントでも高橋氏を上記のような肩書きでゲスト招聘している例が複数あります。
さて今回、キャラフェスinモリコロパーク(愛知県)内で2/20開催された第4回中部コスプレ史研究会の中で、各自が発見した資料を持ち寄って発表されたそうです。
私は千葉県在住により現地は行けなかったのですが、この研究資料は非常に重要なのでここにまとめさせていただきたいと思います。
■第4回中部コスプレ史研究会より
鋼人@2/20中部コスプレ史研究会@koujint
80年11月号のOUTのゆうきまさみ先生の漫画でアニメ雑誌として初めてコスチュームプレイの表記 https://t.co/xvfuC7YlOH
2022/02/20 14:09:39
鋼人@2/20中部コスプレ史研究会@koujint
実際のコスチュームプレイの表記を取り上げたのが81年3月号のふぁんろ~ど https://t.co/O1ndciW0Gi
2022/02/20 14:11:53
鋼人@2/20中部コスプレ史研究会@koujint
82年3月号のふぁんろ~どでコスプレの表記に https://t.co/04ysmYWyoi
2022/02/20 14:17:22
鋼人@2/20中部コスプレ史研究会@koujint
コスチュームプレイヤーの表記は82年11月号のふぁんろ~どより https://t.co/y2lPHkOGxJ
2022/02/20 14:27:56
万事屋EX-13@2月20日モリコロ@chobi_EX_13
流説は怪しいと思ってます。
2022/02/15 17:22:29
SNS時代、コスプレを食い物にする
歴史修正主義者に改変されたコスプレの歴史を
私達当時の関係者が誠の歴史を後世に残せるかの瀬戸際です。
これを見た80年代黎明期コスプレをしていた方、特にローディス… https://t.co/7minVdafZT
万事屋EX-13@2月20日モリコロ@chobi_EX_13
今現在確定した情報
2022/02/16 03:51:09
初1980年月刊OUT11月号
ゆうきまさみ先生の漫画
ファンダム大地に堕つ‼︎
2ページ目一コマに
ああ コスチュームプレイね セリフ
初1982年3月号90p
読者投稿
コスプレ
同年11月号23pコミ… https://t.co/YJy8mMYILi
万事屋EX-13@2月20日モリコロ@chobi_EX_13
🔷速報
2022/02/21 19:25:21
アニメージュ
1980年6月号
5月10日発売
マイアニメージュ内
第6回コミックバザールルポ
コスチュームプレイ(仮装)
4月、5月に開催されたイベントコミックバザールの紹介
9号での仮装写真募集
アニメージュが最古… https://t.co/vCtOFj4KjO
これらの誌面で「コスチュームプレイ」「コスプレ」という言葉が早くから使われているのは納得がいきます。

ついでに愛知県まで参加できなかった私の手持ち資料だと月刊アニメック17号(1981年4月発行)に、映画会社の東宝宣伝部も関わっているアマチュア連合特撮大会からの参加者募集ページで「コスチュームショー」という言葉があります。
ファンによる仮装を「コスチューム◯◯」と表現する風潮は1980年前後に既にあったのでしょうね。
(なお高橋氏も「自分がコスプレの言葉を作る前からコスチューム◯◯という言葉はあったが、それを『コスチュームプレイ』という言葉にしたのはあくまで自分」…とイベント出演などで話っております)
■高橋氏の起源説への疑問
さて。上記のような資料の発見が持つ意味は大きいです(私のはオマケ)。
流れ的に考えるとやはりこのアニメージュ、OUT、ふぁんろ~ど3誌もいきなり使った訳ではなく、どこかで「コスチュームプレイ」「コスプレ」の言葉は使われていたから誌面でも使っているのでしょうから、説としては1の1970年代後半コミケ起源説(それ以前のマンガ大会で既に使われていた説もある)に近づいたと見えます。
髙橋氏の出版人としての功績はそれを月刊マイアニメ誌上で「コスチュームプレー大作戦」というタイトルでカラー連載記事化し、さらに雑誌の表紙にもその言葉を入れた事で(町山氏の指摘を取り入れて略し)、「コスプレ」という言葉を商業誌で広めた功績はあると思います。造語した訳では無かっただけで…。
なんでんかんでん社長は東京でとんこつラーメンブームを起こしたけど、とんこつラーメンを発明した人では無いでしょう?
■正しい起源は「わからない」が正しい
では、本当に「コスチュームプレイ」「コスプレ」という言葉を最初に使い始めたのは誰なのでしょうか?
今回の研究会での資料で判明したのは、〝月刊マイアニメ1983年6月号で高橋氏が使うよりも2年以上前に既に言葉として商業出版物でも使われていた〟という事であって、正確な起源がどこまで遡れるかはまだ判然としません。
元コミケ準備会更衣室統括の牛島えっさい氏の回想では、当時の準備会の女性スタッフが「コスチュームプレイ」と言い出して、それを「コスプレ」に略したのは米澤代表が起源であろうという事になっておりますが…これも口伝なので明確な記録は見つかってないです。他のスタッフからはコミケ以前(第1回コミケは1975年)のマンガ大会でも既に使われていたらしいという伝聞もあり、えっさい氏がそれも調査してるというので続報を待ちます。
商業的な価値観では手柄は誰かのものにしておいた方が扱いやすいですが、学問的な価値観ではわからないものはわからないと勇気を持って発するべきです。
言葉の起源と、それを使う人、それを広める人はそれぞれ異なるのは当たり前なので、まぁ、言葉の発生自体は誰の手柄でもないかもしれませんが。
(同様に、この中部コスプレ史研究会は まに×コスさん(まにあ道事務局コスプレイベント)主催、今回の雑誌を資料として発表したのは鋼人Tさん、万事屋EX-13さん。私は流れと論点をまとめて書いていく事しかできていませんので、発見者に感謝)
× × × × ×
●問題点1
私が髙橋氏の功績(?)を知ったのは東京ゲームショウ2010のコスプレ企画特設ページですが(ここにコスグルーブなる企画集団が関わっていましたが、既にリンク切れしてますね)、しかし後々、おかしいと思うようになりました。
髙橋氏に対して、私より年長の古参レイヤーからリスペクトの声を殆ど聞かなかった事です。出版でもイベントでもSNS運営でも、コスプレ文化に貢献したり長く関わってる人ならば、人間性や社会性に若干問題があっても何だかんだで歴の長いレイヤーからはリスペクトされる傾向があるのに…。
なのでこれからは〝「コスチュームプレイ」「コスプレ」という言葉を造語した訳ではなく、雑誌に使って広めた人〟としてリスペクトしようと思います。
実際にこの言葉が商業媒体で広まった事で、自分たちが何をしてるか伝えやすくなった(誤解もたくさん産んだ)のは事実ですので。
くれぐれも〝コスプレという言葉を最初につくった人〟ではありません。
●問題点2
日本にはコスプレの歴史を俯瞰・横断してまとめられるような団体がありません。いや外国にだって無いと思うのですけど。
今回のような件で言えば、コミックマーケット準備会が自分の権限で語れるのはコミケ内のコスプレ史だけであって、コミケ以外も関わってくるコスプレの歴史までは管轄できません。
月刊マイアニメが取り上げた1983年以降で第一次コスプレブームが起きたとするならば、唯一現存するコスプレ専門誌のコスモード(COSPLAY MODE)創刊は2002年以降、コスプレサイトCure(現World Cosplay)開設は2001年以降、世界コスプレサミット開始は2003年以降、各々それ以降の自分たちが管轄できる期間や地域性でしか責任を負ってまとめられないでしょう。
伝統芸能やプロスポーツと違ってコスプレイヤーは趣味であって、別に何かの協会や組合への登録は求められていませんし、つまりコスプレ全体を俯瞰・横断できる業界団体などはありません。それっぽい名前の何とかコスプレ協会とか評議会とかあっても、結局ローカルな一イベント団体だったりします。
このため、都合よくウソや誇大広告がまかり通ってしまう傾向があります。
伝統芸能やプロスポーツと違い、変な肩書きやウソ歴史を並べる人が現れても、それを諌める権威ある団体などは存在しないからです。まさに言った者勝ち(自称ではない場合は担いだもの勝ち)になる訳です。
もしも事実と異なる事が、マスコミを使って喧伝されたために既成事実化されるという事がまかり通るならば、それは特に高橋氏と一緒に編集してた町山氏が現在批判し続けているようなアベノミクスや維新旋風といった現象と、同じになってしまうのではないかと思います。
× × × × ×
現在、角度の高い情報として言えるのはこれだけです。
【関連資料リンク】 今回は読むと面白いよ。
・「コスプレ」という単語の起源について トゥゲッター
https://togetter.com/li/515074
「コスプレ」という単語の起源について、牛島えっさい氏の見解。
・社長プロフィール --- デラックス株式会社
http://www.hard.co.jp/profile_01.html
スタジオハードデラックスの高橋氏による自己紹介。
・cosplayfandom beginning --- スタジオハード
http://www.hard.co.jp/cosplay_01.html
スタジオハードデラックスの高橋氏による月刊マイアニメのコスチュームプレイ大作戦に関するページ。当時の誌面画像あり。
・「コスプレ」ネーミングの生みの親が聖地で出版記念パーティー PRONWEB
http://www.pronweb.tv/2017/06/12/170612/
2017年に行われた高橋氏の出版記念パーティ。特に読む必要はない。帯文をやくみつる氏が書いてる時点で信憑性に難があるのですが…。
・まにコス 【公式】ツイッター
https://twitter.com/maniadocosplay
今回の研究会を主催したまにあ道事務局コスプレイベント告知アカウント。
経緯の説明、ご指摘、誠に感謝いたします。
本文に追記して、造語に関しては自称ではないという事に関して修正追記を入れました。
その上で、やはり出演したイベントやネット記事などでは「コスプレという言葉を作った」として繰り返し喧伝され既成事実化されており、それをご本人が都度、明確に否定せずに乗ってしまっている事は否めないと私は思います。
改めて、コスプレをメディアに乗せて広めた人、としてリスペクトしています。