こんにちは。学級会ソムリエ的な事をしている人です。
2024年11月現在、何度目かもわからないほど繰り返し繰り返しの炎上沙汰で、またまたまたまた公共スペース(もしくは公共スペースではないが公衆の前、と混同されている)でのコスプレが議論になっていたそうで、これはこの30年くらい繰り返されてそれでも時代が変わっていってるのですが、どうもこれを議論する方々の中で、公共スペースでのコスプレが忌避されるようになった経緯を知らずに場当たり的な擬似著作権や俺マナー論になってしまっているパターンが非常に多いので、客観的な事実としてその歴史的経緯と法律論での扱いをまとめておきます。ザッと1万3000文字ほど。
「二次創作は本来、全て違法であり~」みたいに、明らかに法律論を踏まえてないような、ふにゃふにゃ匿名注意喚起ツイートが何度もバズッたりするのは文化的によくありません。
「グレーゾーン」という言い方もよく使われていて、それも間違いではないのですが、では過去にどういったクロ判定があったり、どうすればシロに近い状況にできるのかという個々の法律や事例を挙げて考えてる人って意外と少なくて、ただ漠然とぼんやりした全体的なイメージで「グレーゾーン」という言葉を使って、それ以上深くは考えてない人もいるでしょう。
「二次創作は本来、全て違法であり~」みたいに、明らかに法律論を踏まえてないような、ふにゃふにゃ匿名注意喚起ツイートが何度もバズッたりするのは文化的によくありません。
「グレーゾーン」という言い方もよく使われていて、それも間違いではないのですが、では過去にどういったクロ判定があったり、どうすればシロに近い状況にできるのかという個々の法律や事例を挙げて考えてる人って意外と少なくて、ただ漠然とぼんやりした全体的なイメージで「グレーゾーン」という言葉を使って、それ以上深くは考えてない人もいるでしょう。
賛成も否定も、過去の歴史的経緯や法律論を知っておけば、考えを深める事ができるのではないでしょうか。
※以下、何かあったらちょいちょい修正や追記していくつもりです。
まず、よく言われるように公共の場所でのコスプレ自体をまとめて禁止するような法律や条例はありません。
法的な問題や警察沙汰になるのは基本的に、露出度の高い衣装によっては軽犯罪や迷惑防止条例、金属の刀剣類をすぐ使用できる状態で携行すれば銃刀法、警官などの階級章をそっくりに作れば公記号偽造、道路を塞いで撮影会をやってしまえば道路交通法、自治体によっては特攻服での集会が暴走族排除条例(東京都にはありません)…といった個々の法律や条例に触れた場合なので、コスプレという行為そのものは禁じられてはいないのです。
著作権の問題にしても、著作財産権における翻案権や複製権には「私的利用」の例外が定められているので、個人がコスプレしているだけで著作権侵害に問われたケースは過去にはありません。
厳密にどこまで法的に「私的利用」範囲なのかは議論があり、家族や友人以外の不特定多数に〝見せる〟前提で使用すれば私的利用範囲を越えるのではないかという指摘もあるのですが、これだけで裁判に至った例も無いので厳密なラインは現在まで引かれていません。
法律系ニュースサイトなどでも何度か取り上げられていますが、読むと弁護士によっても判断が異なります。結局、判例が無いので仮定でしか話せないのです。
繰り返しますがコスプレしていただけで権利者から法的措置まで行った例は過去にありません。ですが、権利者から注意や警告を受けていたケースは実は探すとあります。
そして全部ひっくるめて著作権を侵害するかどうかは権利者が訴えて初めて問える〝親告罪〟ですので、私的利用に該当しなくとも、権利者が問題視して訴えない限りは(正確には裁判を経て)違法性は問えません。
(2018年12月20日施行の改正著作権法では海賊版対策で一部が非親告罪化しましたが、有償/原作のまま/権利者の利益を不当に害する…といった条件がそろった場合のみ権利者の告訴なしで取り締まり対象となるので、パロディや二次創作は対象外。親告罪のままです)
なのでファンとしてコスプレしている以上、当然ながら権利者=いわゆる公式に怒られないようにふるまおうとする訳で、その意味で逸脱した行為を嫌うのはとてもよく分かるのです。
ですが問題になるのはコスプレという服装そのものではなく行動なので。
もちろん「違法でなければ迷惑かけても構わないのか」というのは正論です。転売ヤーだって古物商の資格を取得しておけば別に違法ではありませんし、選挙ポスターに無関係な写真や主張を張り付けても違法ではありませんが、でも確実に迷惑な行為というのも存在します。そこも少し説明します。
■第一部 法律論で見るコスプレと権利者のトラブル例
[コスプレ関連の業者で過去に違法性まで問われたケース]
基本的に権利者から法的措置(民事・刑事での訴訟や警察による逮捕)まで発展するのは、公共スペース云々ではなく営利目的になっているケースでした。
○事件化した例1:東映が特撮ヒーローの衣装業者を訴えた件は複数
2008年にイバラ…キ県のヒーローショウ運営者が東映から借りた特撮ヒーローのマスクやスーツを型取りして複製して、ネット販売していた事件。コスプレ衣装の販売に関して逮捕者が出たという当時は珍しい例でした。製造と販売は別の人でしたが、両方が罪になりました。
この件は少し後に2008年10/21付の朝日新聞でより詳細が記事化されており、東映のテレビ商品化権営業部から「コスプレ文化を否定するものではない。著作権法の『私的利用』の範囲内であれば、むしろ思う存分楽しんで欲しい」とコメントが出ています。
私的利用がどこまでなのかは明確にされておりませんが、まぁ「売っちゃダメ」という事は間違いなさそうです。
http://www.asahi.com/showbiz/manga/TKY200810200417.html
これは一般論でいう「同人誌は公式のビジネスに影響を与えにくいが、グッズ系(衣裳を含む)は公式のビジネスと被るので問題視されやすい」とも符合するでしょう。
また東映は2013年にも戦隊ジャケットを(製造自体は中国の工場に発注)複製販売してした広島県の衣料品販売会社を訴えて広島県警に逮捕されています。ちと続報が無いので裁判の結果は分かりませんでしたが。
https://www.bengo4.com/c_1015/c_17/n_841/ 近似では今年2024年にも仮面ライダー(や初代ウルトラマンのAタイプマスク!)を複製販売していた都内の業者が、東映からの訴えで警視庁に逮捕されています。
https://www.toei.co.jp/company/press-release/detail/1243016_3623.html
○事件化した例2:任天堂のマリカー裁判は著作権の可否には踏み込んでいない
2019年に話題になった件ですが、マリオカートそっくりのレンタル車両サービスにコスプレ衣装を同時に貸し出していた株式会社マリカーが任天堂から訴えられた件、任天堂側は最初、公式ライセンス品のマリオ衣裳であっても著作財産権における貸与権(衣装そのもののレンタルではなく、カートのレンタル客へのサービスという形です。また衣装はライセンス品のパーティグッズでした)と、それをHPにアップした公衆送信権の侵害で訴えていましたが、裁判では著作権での判断は避けられました。
結果、最高裁まで行って不正競争防止法違反で損害賠償の判決が出ています。
もし著作権で判断して違法としてしまうと、例えばカラオケ屋が客相手に追加サービスで衣装を貸し出したり、コスプレ撮影スタジオが撮影例としてコスプレ写真をHPにアップしている事まで違法となってしまうので(親告罪ですが)、周囲への影響が大きすぎると判断されたのでしょう。不正競争防止法なら「他社の有名コンテンツにタダ乗りしてビジネスをした」部分での違法ですから、他所への影響は少ないです。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2012/28/news077.html
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/2b9d708975056d0a108c735512e001a5ffee9dd4https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2012/28/news077.html
[法的措置まで行かないけど販売や売名などコスプレで権利者から注意や警告を受けたケース]
噂レベルではなく情報が公開になっているレベルで、数少ない例としては、2013年に「艦隊これくしょん」の運営チームから、年齢制限のあるコスプレROMの販売はしないでほしいという警告が特定のROM即売会の主催に出されています(後で他の即売会では頒布されていた例もあるので画一的に禁止された訳ではない)。
また2013年に「進撃の巨人」兵団ジャケットを販売(オーダーメイドではなく既製品として製造)していた業者が、ツイッターで公式アカウントが注意を発した直後に販売を取り止めました。
https://togetter.com/li/525036 ※現在はまとめ記事が非公開になっています。 2020年の東京都知事選挙では、「コードギアス」ルルーシュのコスプレで選挙ポスターを掲示した候補者に対して、サンライズ公式HPで「株式会社サンライズおよび製作委員会、作品関係者とは一切関係がありません」という注意喚起が出されました。この候補者は2024年の都知事選でも同じくサンライズ作品のコスプレで選挙ポスターを貼っていますが、話題にもならなかったのでこの時は無視されています(アホでしょうか)。
https://www.sunrise-inc.co.jp/news/releasenews.php?id=127
https://www.sunrise-inc.co.jp/news/releasenews.php?id=127
他に具体的な過程は公になっていないので名は伏せますが、状況を見るとおそらく権利者の警告を受けていたであろう例も幾つかあって、2015年には男子アイドル育成ゲームの女性主人公キャラの18禁コスプレROMをAV女優が個人で販売しようとしたところ、この女優さんがAVメーカー専属であったため迂闊にもメーカーの公式アカウントがこれを宣伝してしまい、直後に販売中止になりました。
また2014年には同社の男子アイドル育成ゲームの非公式ファンイベントとしてコスプレイヤーによるステージパフォーマンスイベントが企画されましたが、前売券の発売直後に中止となっていました。どうもコンビニチケット発券機で作品名を検索すると非公式ファンイベントが出てしまう状態になっていた様子(アホでしょうか)。
一昔前、TMAが積極的に製作していた比較的クオリティ高めのコスプレAVシリーズの一部が、突然販売停止になってたりしたのも恐らく同じように注意や警告があったと思われますが、その詳細は公表されていません。多くの権利者はわざわざ表沙汰にせず、穏便に済ませると思われます。
上記は販売や選挙活動が絡む(業としての)営利活動です(選挙ポスターが営利かどうかは判然としませんが確実に売名です)
しかし公共スペースでの個人による非営利のコスプレ活動が権利者から警告を受けたケースも、わずかですが過去に存在しますので記します。なお非営利である事と私的利用はちょっと違いますので、非営利だけど私的利用に該当しないケースというのもあるのです。
[法的措置まで行かないけど公共スペースでの個人による非営利コスプレ活動で権利者から注意や警告を受けたケース]
かなり特殊な例ですけど知っておいて損しないです。
2016年には目黒駅や秋葉原駅近辺でウルトラマンの全身スーツ姿の人が目撃されて各局でワイドショーなどでも取り上げられる内に、円谷プロから取材に答える形で「個人の趣味の範疇でお楽しみいただきたい。公衆の中では本物と間違えて怪獣や宇宙人が襲ってくるかもしれませんので」とやんわり注意されています。
https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/229043
2023年にはプリキュアの着ぐるみを着用して、公園で子供たちと非公式グリーティングしていた人の活動に対して、東映アニメーションから公式に厳しめに注意されています。
https://twitter.com/toeianime_info/status/1689200055516082176
上記と似たような例では公共スペースではないものの、今年2024年には「わんだふるぷりきゅあ!ドリームステージ」を公演する劇団飛行船HPで「コスプレをした状態の大人のお客様の、ご来館及びご観劇を禁止とさせて頂きます」と告知されました。同ステージの東映アニメーション側の公式HPには書かれてないのですが、公演する劇団飛行船側のHPではTOPに掲載されています。
他、公共スペースでの個人による非営利のコスプレ活動で、こうした注意・警告以上の法的措置まで行ったケースは存じませんので、もし有ったら(噂レベルではなく情報が公開されているもの)、教えてください。なお法的措置まで行っても、裁判で争ったらその都度ケースごとに判断されるので、勝ち負けは分かりません。ファンとしては権利者との係争なんて絶対に避けたい事ですが。
総じて見れば、現実世界に公式の着ぐるみが存在して公式のアトラクションと混同される可能性の高いコスプレ、あるいは子供を対象としたイベント空間での大人によるコスプレ(着ぐるみでなくても)に対しては、法的措置ではないものの許しがたい行為として注意や警告を発する例が、極めて限定的な条件下ではやはりあるようです。
着ぐるみではない顔の出ている〝衣装〟を着たコスプレで、純粋に公共スペース(劇場など含まず)での活動に対してはこのような権利者から明確に注意が出たケースは確認できませんでした。
[コスプレイベントも、権利者の許可は取っていない]
よくある勘違いで「コスプレは著作権法違反なのでイベント以外で無許可コスやったら訴えられる」みたいな思い込みしてる人がいます。
ハッキリ言うとコスプレイベントだって(特定作品の公式イベントでもない限り)権利者の許可なんて取ってません!
あくまで更衣室や撮影機材持込などができる〝場所〟を提供し、何かトラブルがあったらスタッフが間に入ってくれたり、事故があった際の補償をしてくれる(まともなイベントならば)だけです。
キャラクターを事前申請して、権利者にお伺いを立てて、参加費から利益分配して…みたいな事をやってたら大変な手間と時間がかかりますし、もし「公認」した場合、そこで発生した問題に対しても何らかの責任を負わないといません。
これは自治体が補助金を出しているような街おこし系イベントや省庁など行政機関が後援しているイベントでも同じで、1個ずつの権利者に許可は取っていません。
少なくとも「コスプレイベント以外での野良コスプレは著作権法違反!」みたいなよくある学級会は、前提が少々おかしいです。違法行為だとしたらイベント内外は必ずしも関係ないでしょう。
正直、著作権(を含めた知的財産権)に関してはどこまでOKかというラインがどうしても曖昧で、このケースがアウトだけど類似の別件に関してはセーフみたいな事も多々あって、また権利者によって対応が温度差ありまくるので、ファンとしては公式のビジネスを邪魔しない範囲・迷惑をかけない範囲を何となく探りつつやってるような感じがあります。
以上、公共スペースでのコスプレの法的な話でした。
これとは別にSNSなどにアップした際の公衆送信権の話がありますので次。
[時代に合わなくなった公衆送信権の問題]
著作財産権における公衆送信権は、私的利用でも例外とはならない部分です。
放送やネット配信で他人の著作物をそのまま流したら、個人だろうが企業だろうが非営利だろうが関係ありませんから、そもそも私的利用というような概念が存在しません。前述のようにマリカー裁判でも任天堂は当初この公衆送信権(店のHPに載せていた)でも訴えていましたが、裁判では著作権ではなく不正競争防止法違反で判決が出ました。
この法律では元著作物とファンアートや二次創作(二次的著作物)が区別されていないので、コスプレはするだけならば私的利用となる可能性が高いけど、それをSNSにアップする行為は公衆送信権の侵害になり得ます。
本来は元の著作物を権利者の許可なく勝手に放送や上映してはいけないという法律なので、個人が二次創作したイラストやコスプレ写真をSNSにアップして見せ合う事なんて、法律を制定した時代には想定されていなかったのです。
近年、ゲーム系のコンテンツを中心にファンアートやゲーム画面のSNSへの投稿に関してガイドラインを設けて一定条件化で許可しているコンテンツが増えたのは、主にこの公衆送信権への対応と思われます。
ただしこれもコスプレ画像の投稿だけで実際に権利者からの法的措置に至ったケースは確認できませんでした。仮にあったとしても水面下で穏便に済ませるでしょうから、表沙汰にはならないでしょうね。
(コスプレ画像がエロ過ぎて公式から警告食らった~系の噂はよくありますが真偽を確認できないのと、本人が武勇伝的にフカシてる可能性が高いのでここでは無視しています)
■第二部 歴史的経緯から見る公共スペースでのコスプレ忌避の流れ
なぜ日本のコスプレイヤーは公共スペースでのコスプレを忌避するようになったのか?歴史面から見ていきましょう。
話は昭和にまでさかのぼります。
●コミックマーケット年表
https://www.comiket.co.jp/archives/Chronology.html
●コミックマーケット30周年史『コミックマーケット30’sファイル』PDFの公開
https://www.comiket.co.jp/archives/30th/
(PDFで公開されてる部分のこのp234以降がコスプレ関連項目)
そもそもの発端ですが、まだコスプレしてオタクが集まれる機会が極めて限られていた頃、その中心はコミックマーケットでした。
1983年、警察からの「風紀を乱す」という要請により、「会場外でのコスプレ」が禁止になります。当時は「うる星やつら」ブームの頃ですね。これは段階を経て「コスプレのままでの来場禁止」「コスプレは更衣室を使用する」という風にルールが追加されていきます。でもコスプレのまま来場が禁止されても物陰で着替えていたので、女子更衣室が初めて設置されたのは1988年になってからだそうです。
問題を抱えながら巨大化する過程でどうしてもコミケ参加者や当時のスタッフからはコスプレ不要論が根強く、制限しながら残すために、この時点でコミケでは「コスプレのまま来場禁止。必ず更衣室を使用する」という現行ルールの基礎が出来上がりました。
対して1988年に始まった赤ブーブー通信社のコミックシティは元が同人誌印刷会社のイベント部門であり、あくまで同人誌をたくさん刷って売買してもらうためのイベントでしたから、早期にコスプレを禁止しています。コスプレして集まれる大型イベントがコミケの他には殆どありませんでした。
1990年代に入ると対戦型アーケードゲームや家庭用ハード次世代機戦争によるグラフィック向上を経て、格闘ゲーム・RPGゲーム、さらにセラムンブームなど重なってコスプレイヤー人口が急拡大していきます。
この時期、同人誌即売会以外での独立した小規模コスプレイベント(まだデジカメが存在しないのでその多くはダンパ形式です)が立ち上がっていきますが、その多くがコミケのコスプレルールをほぼそのまま転用していました。
つまりコミケのコスプレルール=コスプレ界全体のルールの様に扱われていた訳です。
察しの良い人はお気づきでしょう。つまり元は著作権云々ではなく、露出度の高い衣装への警察から風紀上の指導で「コスプレでイベント参加する際は必ず更衣室を使用する事」だったのが、いつの間にか「イベント以外ではコスプレしてはいけない」に誤認され、訂正されないまま広まっていったのです。
それは法律論ではなく、イベント団体が定めたローカルルールでもない、でも共通認識のように持たれていた〝コスプレ村のオキテ〟みたいなものでした。
× × × × × × × ×
社会全体に目を広げると、平成の始まった1989年に逮捕された連続幼女誘拐殺人事件の容疑者がコミケへのサークル出展歴を持っていた事から全国的な“オタクバッシング”“有害コミック規制運動”が始まります。
1995年にはオウム真理教の地下鉄サリン事件が発生し、異様な服装をした集団(オウムは当初、駅前で変な格好での路上パフォーマンスを行っていた)に対する社会不安が広がります。
ロリコンもオウムも最初は〝面白い変わり者〟として見られていたのが、社会への脅威に変貌しました。
世間からオタク文化への不安視、異様な服装の集団への不安視が強くなった時代において、徐々に拡大しつつあったコスプレイベントは、しかし徹底的に世間の目から隔離するようになります。
この時代においては「イベント以外ではコスプレしてはいけない」という共通認識は、たとえ誤解から広まったとしても、それはそれで仕方なかったのでしょう。
とにかく世間から隠れなくてはいけなかった…当時を生きた人間としてもそう思います。
また、言っちゃ何ですがこの誤解はコスプレイベントを主催する団体にとってはとても都合の良いものでした。だって「イベント以外でコスプレしてはいけない」という認識が共通していれば、コスプレしたい人は皆、イベントに参加してお金を払ってくれますから。
それでも、時代というのは少しずつ変わっていきます。
× × × × × × × ×
日本経済がどうしようもない不況下でサブカル文化での消費が注目され始めた1990年代末頃から、日本でも少しずつハロウィンが(商業的な都合で)導入されていきます。
1997年には川崎ハロウィンパレード、後楽園ハロウィンフェスタ、ディズニーハロウィンなど、屋外での一般人と混在したコスプレイベントが始まります。実際には主にコスプレイヤーを集客していた面がありますが、最初はハロウィンにかこつけて始めたイベントでした。最初は上手くいかなくても、何回か経て形になっていきます。
ハロウィン仮装とコスプレの違いについても度々議論になりますが、感情論においてはもちろん違いはありますが、実際には持ちつ持たれつ、互いに利用し合う関係だった訳です。
後楽園ハロウィンは後にTDCコスプレフェス/TDCレイヤーズパラダイスとなって現在まで定期的に開催されており、2000年代に入るとこのパターンを模して各地のテーマパークや商業施設でコスプレイベントが始まります。バブルの頃に作ってしまった、背景が綺麗で人が少ないテーマパークというのがコスプレイヤーを集めるのに魅力的だったからです。
これらは開催の都度、多くの一般人の前でコスプレイヤーが闊歩する事への批判が2chのスレを賑わせましたが、イベントとしてほぼ減る事なく広まっていったのが答えです。
2003年にはテレビ愛知による愛知万博への便乗企画として世界コスプレサミットが開始。数年かけて外務省も後援する国際的イベントに発展していきます。海外の大型アニメイベントを参考にフリーダム化し、県や市といった自治体が実行委員会形式でも入っているので、あえてコスプレイベントとしての厳密な範囲を設定せず、名古屋市内ではコスプレのまま来場や公共交通を使用できます。
地方経済が疲弊する中で〝アニメ・コスプレで町おこし〟が注目され、2010年代には「らき☆すた」ブームで鷲宮神社の土師祭コラボなども相まって、全国各地に自治体後援の大型コスプレイベントが発生していきます。これらは公共施設を安く使わせてくれたりするので概ね参加費が安く、更衣室使用が義務ではない場合もあります。自治体にしてみれば更衣室使用料ではなく、たくさんのコスプレイヤーと見物人が来る事で地元の交通機関や飲食店や宿泊施設にお金を落としてもらった方が良いからです。
(とは言え、コスサミは更衣室なし参加券を設定して、その料金が更衣室あり料金と変わらなくなりつつあるのでどうにかならんか…という話を前回書いたけど誰も読まなかったな…)
00年代後半からデジタル一眼レフのブーム、そしてリーマンショックによる不景気からプロ用の撮影スタジオが個人への貸し出しを始め、地方都市の空いた雑居ビルがコスプレ撮影スタジオへと姿を変えます。「イベント以外ではコスプレしてはいけない」に、撮影用スタジオなら可能も加わりました。
また観光協会を絡めたロケ誘致なども盛んに行われるようになります。コスプレが金を落とす存在として認識されつつありました。
[ネットを介した議論は、同調圧力を生みやすかった]
ネット時代を迎えて、コスプレに関しての議論の場ですが…。
まず2ちゃんねるですが、悪名高いコスプレ板は2ch内でも比較的古参の板でした。1999年に新設された旧ネットアイドル版が(初期からコスプレイヤー晒し&叩きに利用される事が多かったので)半年後に改称したものです。
2000年代に入ってからはmixi,Cure,コスプレイヤーズアーカイブといった簡単に写真を投稿できるSNSが次々と普及し、コスプレイベントの楽しみ方が旧来のダンパ形式から、クオリティの高い写真を撮影してSNSにアップする事が主流になっていきます。
そしてイベント以外でコスプレする行為に対する議論の場も2chからこれらSNS内に移っていくのですが、基本的に建設的な議論としてはあまり成立していませんでした。
「イベント以外でコスプレしてはいけない」という認識がまだ強い時代、2chスレ住人やコスプレ系SNSユーザーやmixiのコスプレ系コミュニティ参加者は、その同質性が高いのでどうしても〝コスプレ村〟内の同調圧力が強く、殆どがこれら公共スペースでのコスプレ・イベント以外でのコスプレを叩く方に行ってしまい、たまに擁護した人までも叩かれるのです。
2005年頃からはTV版「電車男」ブームから派生する形でのアキバブーム・萌えブーム・メイドブーム・ゴスロリブームなどにも拡大、メイド服やゴスロリ姿で路上を闊歩する愛好家(という映像をTVでは使いたがるので)に対して、なぜコスプレで路上に出る事がマナー違反として叩かれるのか?ゴスロリと何が違うのか?という疑問の声も上がりました。が、やはりSNS上では圧倒的に否定派が多く、議論としては成立しにくいものでした。
一例ですが2012年公開映画「ロボジー」では、北九州市でのイベント帰りに衣装のままタクシーを使うコスプレイヤー達が登場しますが、これもTV放送された際に炎上しました。
メディアが以前よりはコスプレその他のオタク文化をイロモノながらポジティブに取り上げるようになりつつありましたが、それがSNSを介して旧来の価値観との摩擦が起きやすくなってきたのです。
(「捏造コスはイベントを避けスタジオで行う」みたいな先鋭化した独自マナー論が流布されるようになったのも、SNSが普及したこの時期ですね…カイブのコスプレ知恵袋とか)
2005年頃からはTV版「電車男」ブームから派生する形でのアキバブーム・萌えブーム・メイドブーム・ゴスロリブームなどにも拡大、メイド服やゴスロリ姿で路上を闊歩する愛好家(という映像をTVでは使いたがるので)に対して、なぜコスプレで路上に出る事がマナー違反として叩かれるのか?ゴスロリと何が違うのか?という疑問の声も上がりました。が、やはりSNS上では圧倒的に否定派が多く、議論としては成立しにくいものでした。
一例ですが2012年公開映画「ロボジー」では、北九州市でのイベント帰りに衣装のままタクシーを使うコスプレイヤー達が登場しますが、これもTV放送された際に炎上しました。
メディアが以前よりはコスプレその他のオタク文化をイロモノながらポジティブに取り上げるようになりつつありましたが、それがSNSを介して旧来の価値観との摩擦が起きやすくなってきたのです。
(「捏造コスはイベントを避けスタジオで行う」みたいな先鋭化した独自マナー論が流布されるようになったのも、SNSが普及したこの時期ですね…カイブのコスプレ知恵袋とか)
2010年中盤でツイッターの時代になると、ようやくコスプレ村に対して外側の視点が入ってきて、もうちょっと広い視点で議論として成立するようになります。同時にイベント以外でのコスプレ自体は法的には禁止されていない事や、マナー論というのが時代や地域ごとに変わって絶対ではないという認識も生まれていきます。
近年は特に若者向けの動画投稿サイトやSNSで、インフルエンサーらが全く別の姿に変身するコスプレ企画(で安易に再生数を稼ごうとする不埒な商売)するのも定番です。
またコスプレイヤーをタレント的にメディアに使用する(という建前で何の芸能スキルも持たないハダカ路線の女性らを「コスプレのプロ」と持ち上げる不埒な商売)例も出てきました。
政府が省庁を横断して展開するクールジャパン関連の事業にコスプレイベントやコスプレイヤーが関わる(という建前で代理店や芸能事務所が行政機関から予算を引っ張ろうとする不埒な商売)例もあります。
こうなってくると、かつてオタク文化に対して不安・不信を抱いていた社会全体がコスプレを〝見慣れてしまった〟というのが正しいでしょうか。
だから、著作権云々じゃないんですね。あくまで世間がどう見るか。敵視するのか、面白がるのか。
うる星やつらブームの頃に警察に睨まれ、参加者拡大期で対応に苦心したコミケでは会場外でのコスプレを禁止しなくてはいけなかったし、その後のオタクバッシングやオウム事件での世間の風当たりの強さからはコスプレを隔離する必要があった。
だから他のコスプレイベントも同じ様に「イベント参加する際は更衣室を使用する事」をルール化して、いつの間にかそれは「イベント・スタジオ以外ではコスプレしてはいけない」に拡大解釈されてしまった。
かつて不文律であり絶対視されていた「イベント・スタジオ以外ではコスプレしてはいけない」は、徐々にですが変わりつつあるのでしょうね。
■第三部 まとめ&私見
これらの対立は、法律論や歴史的経緯を並べてもまだ納得しない人は納得しませんし、何事も許さない人は許さないのです。だって許せないから。
公共スペースや公衆の前でコスプレすることに否定的な人は、例れば「コスプレイベントではない公園やオタクイベントでコスプレ可否についてHPには書かれてないから、自分で施設管理団体やイベント主催者に問合せして、OKをもらってコスプレで参加した」←これすらも許せないという人がいて、たびたび炎上しています。最初にコスプレ可能と明確に書いてあるイベントや施設以外に、コスプレでの参加をお願いする行為そのものがアウト判定を受けるからです。
コスプレ嫌いなアンチ層はこれを視界に入れたくないですし、コスプレイヤーだけどイベント以外でのコスプレ否定派はそういった村のオキテを破る人間を(例え施設や主催者に許可取ってても)許せないです。
若人がコスプレを始めるにあたって資格は必要ないし別に講習会を受けて参入したりしてないので、コスプレ活動する初期に所属したり参考にした人達のコミュニティ内の価値観がそのまま代替わりしながら引き継がれていく傾向があります。
自分が始めた時に周りの先輩から徹底的に「ダメ!」と言われていた事が、他の地域・世代・コミュニティでは堂々と行われてしまうと、やっぱり感情的にすんなり受け入れられないのです。
こうした感情論は時により大きな主語での装飾を伴って、自分の不快や不安を言い換えて「暗黙のルールです」「過去のレイヤーが守ってきたものを壊さないでください」「コスプレ嫌いな人だっているんです」「公式から怒られてその作品のコスプレ全面禁止になったら責任取れるんですか?」etc…。
正直、かくいう私も過去にはこうしたマナー論を押し付ける側だったと思うので、これを言いたくなる心境はすごく分かるのです。誰かの暴走と不始末のせいで、自分たちの〝場〟が無くなってしまうんじゃないかという不安は常にありましたから。
この世界は「好き」の感情の他に「嫌い」という感情も渦巻いてて、とりわけオタクの世界、特にコスプレに関わる世界は感情論でモノを言いがちなので。
私はそれが一概に間違ってるとも思いません。コスプレ村が感情論から切り離される事は無いでしょう。
でも感情論を無視したり茶化すのではなく、法律論や歴史的経緯の認識とどう折り合い付けていくかがきっと重要なので。
× × × × × × × ×
ここまで書いといてじゃあ自分はどうなんだと問われたら?
…ハッキリ言って、イベントやスタジオ以外での公共スペースでのコスプレなんて、自分ではやりたいと思わないです。
着ぐるみレイヤーの端くれなので〝公式のアトラクションと間違われる〟危険性がありますし、悪目立ちしやすいですし、その後に起こる炎上リスクも充分に知っています。公共スペースでも何らかのイベントの参加だったら、他のコスプレイヤーもいて紛れるので公式と誤解される危険性は低くなりますから。
でも、他の人達がそんなリスクを知ってか知らずか、問い合わせしたり調べたりして、それで公共スペースでもコスプレしてみたいと考えて行動するならば、それは別に止める事ではないと自分では思います(ヒーローの着ぐるみなら止めとけと言います)。
むしろ、言い返せるくらいになってくれるならそれで良いです。
自分達の世代で過去に絶対視されてきた〝コスプレ村のオキテ〟が、意識も背景もツールも違う時代に、永遠にそのまま通用する訳は無いので。
以上、いつも以上に長々と書きましたが、参考にしていただければ幸いです。
何か大きな事例があったら追記していきますので。
【告知1】
8月下旬から1カ月間の土日を費やして書き記した大長編、世界コスプレサミット2024のレポ(ちゃんと取材パス申請したんですよ)が、公開2カ月間で前編35後編38PVという記録的な低さで泣きそうなので、なんか長い文章が読みたいと思う奇特な人!いたら読んで!!
こんな紛争と戦争ばっかりやってる時代だからこそ、この奇祭には価値があるのだよ。
・世界コスプレサミット2024レポ前編:全36カ国代表チーム演目ふりかえり!
https://zubunuretiwawa.ldblog.jp/archives/61816579.html
・世界コスプレサミット2024レポ後編:パレード~街歩き~終幕
https://zubunuretiwawa.ldblog.jp/archives/61828164.html 【告知2】
えー、毎年恒例ですが、ネット上を駆け巡った様々な〝学級会〟を、法律論・歴史的経緯・伝言ゲーム元情報などから研究して記録している「同人・コスプレ学級会 傾向と対策」シリーズの2024年版が、c105冬コミ2日目の東3ホール〝ア〟16-b 旅と怪獣 にて発行になる予定です。
ネット上を駆けめぐった毎年の学級会を、法律論・歴史的経緯・伝言ゲームから大研究してます。
胃が痛くなる思いしながら原稿書いてますよろしく。冬コミ後はBOOTHで通販しますんで…。
https://zubunuretiwawa.booth.pm/
2024収録予定一部: ゲ謎グッズが迷い込んだ同人因習村/「何でも許せる人向け」が許せない/飲食店でのぬい撮りで食器と接触させるのは不衛生/恥ずかしい同人誌の国会図書館への納本を阻止したい/格ゲーキャラのコスプレするなら格闘技経験は必須か/赤ブーは女性向けイベントなので男性作家のサークル参加は配慮すべきか/カジュアルおばさんと呼ばないで/ブルアカオンリーイベントで同人AV購入者から男優募集/アコスタ炎上三部作(着せ恋ドラマ撮影一週間前に版権フリー衣装エキストラ募集・球場イベントで女性更衣室エリアに男性侵入・六甲アイランドで同日開催の小規模イベント中止へ)etc
https://zubunuretiwawa.booth.pm/
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