こんにちは。学級会ソムリエ的な事をしている人です。
2024年11月現在、何度目かもわからないほど繰り返し繰り返しの炎上沙汰で、またまたまたまた公共スペース(もしくは公共スペースではないが公衆の前、と混同されている)でのコスプレが議論になっていたそうで、これはこの30年くらい繰り返されてそれでも時代が変わっていってるのですが、どうもこれを議論する方々の中で、公共スペースでのコスプレが忌避されるようになった経緯を知らずに場当たり的な擬似著作権や俺マナー論になってしまっているパターンが非常に多いので、客観的な事実としてその歴史的経緯と法律論での扱いをまとめておきます。ザッと1万3000文字ほど。
「二次創作は本来、全て違法であり~」みたいに、明らかに法律論を踏まえてないような匿名注意喚起ツイートが何度もバズッたりするのは文化的によくありません。
「グレーゾーン」という言い方もよく使われていて、それも間違いではないのですが、では過去にどういったクロ判定があったり、どうすればシロに近い状況にできるのかという個々の法律や事例を挙げて考えてる人って意外と少なくて、ただ漠然とぼんやりした全体的なイメージで「グレーゾーン」という言葉を使って、それ以上深くは考えてない人もいるでしょう。
「二次創作は本来、全て違法であり~」みたいに、明らかに法律論を踏まえてないような匿名注意喚起ツイートが何度もバズッたりするのは文化的によくありません。
「グレーゾーン」という言い方もよく使われていて、それも間違いではないのですが、では過去にどういったクロ判定があったり、どうすればシロに近い状況にできるのかという個々の法律や事例を挙げて考えてる人って意外と少なくて、ただ漠然とぼんやりした全体的なイメージで「グレーゾーン」という言葉を使って、それ以上深くは考えてない人もいるでしょう。
賛成も否定も、過去の歴史的経緯や法律論を知っておけば、考えを深める事ができるのではないでしょうか。
まず、よく言われるように公共の場所でのコスプレ自体をまとめて禁止するような法律や条例はありません。
法的な問題や警察沙汰になるのは基本的に、露出度の高い衣装によっては軽犯罪や迷惑防止条例、金属の刀剣類をすぐ使用できる状態で携行すれば銃刀法、警官などの階級章をそっくりに作れば公記号偽造、道路を塞いで撮影会をやってしまえば道路交通法、自治体によっては特攻服での集会が暴走族排除条例(東京都にはありません)…といった個々の法律や条例に触れた場合なので、コスプレという行為そのものは禁じられてはいないのです。
著作権の問題にしても、著作財産権における翻案権や複製権には「私的利用」の例外が定められているので、個人がコスプレしているだけで著作権侵害に問われたケースは過去にはありません。
厳密にどこまで法的に「私的利用」範囲なのかは議論があり、家族や友人以外の不特定多数に〝見せる〟前提で使用すれば私的利用範囲を越えるのではないかという指摘もあるのですが、これだけで裁判に至った例も無いので厳密なラインは現在まで引かれていません。
法律系ニュースサイトなどでも何度か取り上げられていますが、読むと弁護士によっても判断が異なります。結局、判例が無いので仮定でしか話せないのです。
繰り返しますがコスプレしていただけで権利者からの法的措置まで行った例は過去にありません。
ですが、権利者から(法的効力の無い)注意や警告を受けていたケースは実は探すとあります。
そして全部ひっくるめて著作権を侵害するかどうかは権利者が訴えて初めて法的に問える〝親告罪〟ですので、私的利用に該当しなくとも、権利者が問題視して訴えない限りは(正確には裁判を経て)違法性は問えません。
(2018年12月20日施行の改正著作権法では海賊版対策で一部が非親告罪化しましたが、有償/原作のまま/権利者の利益を不当に害する…といった条件がそろった場合のみ権利者の告訴なしで取り締まり対象となるので、パロディや二次創作は対象外。親告罪のままです)
なのでファンとしてコスプレしている以上、当然ながら権利者=いわゆる公式に怒られないようにふるまおうとする訳で、その意味で過去から逸脱した行為を嫌うのはとてもよく分かるのです。
ですが問題になるのはコスプレという服装そのものではなく行動なので。
もちろん「違法でなければ迷惑かけても構わない訳ではないだろ」というのは正論です。転売ヤーだって古物商の資格を取得しておけば別に違法ではありませんし、選挙ポスターに無関係な写真や主張を張り付けても違法ではありませんが、でも確実に迷惑な行為というのも存在します。そこも少し説明します。
■第一部 法律論で見るコスプレと権利者のトラブル例
[コスプレ関連の業者で過去に違法性まで問われたケース]
基本的に権利者から法的措置(民事・刑事での訴訟や警察による逮捕)まで発展するのは、公共スペース云々ではなく営利目的になっているケースでした。
○事件化した例1:東映が特撮ヒーローの衣装業者を訴えた件は複数
2008年にイバラ…キ県のヒーローショウ運営者が東映から借りた特撮ヒーローのマスクやスーツを型取りして複製して、ネット販売していた事件。コスプレ衣装の販売に関して逮捕者が出たという当時は珍しい例でした。製造と販売は別の人でしたが、両方が罪になりました。
この件は少し後に2008年10/21付の朝日新聞でより詳細が記事化されており、東映のテレビ商品化権営業部から「コスプレ文化を否定するものではない。著作権法の『私的利用』の範囲内であれば、むしろ思う存分楽しんで欲しい」とコメントが出ています。
私的利用がどこまでなのかは明確にされておりませんが、まぁ「売っちゃダメ」という事は間違いなさそうです。
http://www.asahi.com/showbiz/manga/TKY200810200417.html
これは一般論でいう「同人誌は公式のビジネスに影響を与えにくいが、グッズ系(衣裳を含む)は公式のビジネスと被るので問題視されやすい」とも符合するでしょう。
また東映は2013年にも戦隊ジャケットを(製造自体は中国の工場に発注)複製販売してした広島県の衣料品販売会社を訴えて広島県警に逮捕されています。ちと続報が無いので裁判の結果は分かりませんでしたが。
https://www.bengo4.com/c_1015/c_17/n_841/ 近似では今年2024年にも仮面ライダー(や初代ウルトラマンのAタイプマスク!)を複製販売していた都内の業者が、東映からの訴えで警視庁に逮捕されています。
https://www.toei.co.jp/company/press-release/detail/1243016_3623.html
○事件化した例2:任天堂のマリカー裁判は著作権の可否には踏み込んでいない
2019年に話題になった件ですが、マリオカートそっくりのレンタル車両サービスにコスプレ衣装を同時に貸し出していた株式会社マリカーが任天堂から訴えられた件、任天堂側は最初、公式ライセンス品のマリオ衣裳であっても著作財産権における貸与権(衣装そのもののレンタルではなく、カートのレンタル客へのサービスという形です。また衣装はライセンス品のパーティグッズでした)と、それをHPにアップした公衆送信権の侵害で訴えていましたが、裁判では著作権での判断は避けられました。
結果、最高裁まで行って不正競争防止法違反で損害賠償の判決が出ています。
もし著作権で判断して違法としてしまうと、例えばカラオケ屋が客相手に追加サービスで衣装を貸し出したり、コスプレ撮影スタジオが撮影例としてコスプレ写真をHPにアップしている事まで違法となってしまうので(親告罪ですが)、周囲への影響が大きすぎると判断されたのでしょう。不正競争防止法なら「他社の有名コンテンツにタダ乗りしてビジネスをした」部分での違法ですから、他所への影響は少ないです。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2012/28/news077.html
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/2b9d708975056d0a108c735512e001a5ffee9dd4https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2012/28/news077.html
〇書類送検された例:桜の恋 (2025.4追記)
2023年に楽栄株式会社が「桜の恋」名義で販売していたコスプレ衣装が著作権法と商標法違反容疑で書類送検されていますが、その後のニュースが無いのでおそらく不起訴と思われます。
桜の恋ブランドでの通販も継続中で、エヴァ関連の衣装のみ販売中止されたようです。押収品の中にあった東京リベンジャーズや鬼滅の刃も販売は継続されています。
[法的措置まで行かないけど販売や売名などコスプレで権利者から注意や警告を受けたケース]
噂レベルではなく情報が公開になっているレベルで、数少ない例としては、2013年に「艦隊これくしょん」の運営チームから、年齢制限のあるコスプレROMの販売はしないでほしいという警告が特定のROM即売会の主催に出されています(後で他の即売会では頒布されていた例もあるので画一的に禁止された訳ではない)。
また2013年に「進撃の巨人」兵団ジャケットを販売(オーダーメイドではなく既製品として製造)していた業者が、ツイッターで公式アカウントが注意を発した直後に販売を取り止めました。
https://togetter.com/li/525036 ※現在はまとめ記事が非公開になっています。 2020年の東京都知事選挙では、「コードギアス」ルルーシュのコスプレで選挙ポスターを掲示した候補者に対して、サンライズ公式HPで「株式会社サンライズおよび製作委員会、作品関係者とは一切関係がありません」という注意喚起が出されました。この候補者は2024年の都知事選でも同じくサンライズ作品のコスプレで選挙ポスターを貼っていますが、話題にもならなかったのでこの時は無視されています(アホでしょうか)。
https://www.sunrise-inc.co.jp/news/releasenews.php?id=127
https://www.sunrise-inc.co.jp/news/releasenews.php?id=127
他に具体的な過程は公になっていないので名は伏せますが、状況を見るとおそらく権利者の警告を受けていたであろう例も幾つかあって、2015年には男子アイドル育成ゲームの女性主人公キャラの18禁コスプレROMをAV女優が個人で販売しようとしたところ、この女優さんがAVメーカー専属であったため迂闊にもメーカーの公式アカウントがこれを宣伝してしまい、直後に販売中止になりました。
また2014年には同社の男子アイドル育成ゲームの非公式ファンイベントとしてコスプレイヤーによるステージパフォーマンスイベントが企画されましたが、前売券の発売直後に中止となっていました。どうもコンビニチケット発券機で作品名を検索すると非公式ファンイベントが出てしまう状態になっていた様子…。
一昔前に、TMAが積極的に製作していた比較的クオリティ高めのコスプレAVシリーズの一部が、突然販売停止になってたりしたのも恐らく同じように注意や警告があったと思われますが、その詳細は公表されていません。多くの権利者はわざわざ表沙汰にせず、穏便に済ませると思われます。
上記は販売や選挙活動が絡む(業としての)営利活動です(選挙ポスターが営利かどうかは判然としませんが確実に売名です)
しかし公共スペースでの個人による非営利のコスプレ活動が権利者から警告を受けたケースも、わずかですが過去に存在しますので記します。なお非営利である事と私的利用はちょっと違いますので、非営利だけど私的利用に該当しないケースというのもあるのです。
[法的措置まで行かないけど公共スペースでの個人による非営利コスプレ活動で権利者から注意や警告を受けたケース]
かなり特殊な例ですけど知っておいて損しないです。
2016年には目黒駅や秋葉原駅近辺でウルトラマンの全身スーツ姿の人が目撃されて各局でワイドショーなどでも取り上げられる内に、円谷プロから取材に答える形で「個人の趣味の範疇でお楽しみいただきたい。公衆の中では本物と間違えて怪獣や宇宙人が襲ってくるかもしれませんので」とやんわり注意喚起されています。
https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/229043
2023年にはプリキュアの着ぐるみを着用して、公園で子供たちと非公式グリーティングしていた人の活動に対して、東映アニメーションから公式に厳しめに注意されています。
https://twitter.com/toeianime_info/status/1689200055516082176
上記と似たような例では公共スペースではないものの、今年2024年には「わんだふるぷりきゅあ!ドリームステージ」を公演する劇団飛行船HPで「コスプレをした状態の大人のお客様の、ご来館及びご観劇を禁止とさせて頂きます」と告知されました。同ステージの東映アニメーション側の公式HPには書かれてないのですが、公演する劇団飛行船側のHPではTOPに掲載されています。
他、公共スペースでの個人による非営利のコスプレ活動で、こうした注意・警告以上の法的措置まで行ったケースは存じませんので、もし有ったら(噂レベルではなく情報が公開されているもの)、教えてください。なお法的措置まで行っても、裁判で争ったらその都度ケースごとに判断されるので、勝ち負けは分かりません。ファンとしては権利者との係争なんて絶対に避けたい事ですが。
総じて見れば、現実世界に公式の着ぐるみが存在して公式のアトラクションと混同される可能性の高いコスプレ、あるいは子供を対象としたイベント空間での大人によるコスプレ(着ぐるみでなくても)に対しては、法的措置ではないものの許しがたい行為として注意や警告を発する例が、極めて限定的な条件下ではやはりあるようです。
着ぐるみではない顔の出ている〝衣装〟を着たコスプレで、純粋に公共スペース(劇場など含まず)での活動に対してはこのような権利者から明確な注意が出たケースは確認できませんでした。
[コスプレイベントも、権利者の許可は取っていない]
よくある勘違いで「コスプレは著作権法違反なのでイベント以外で無許可コスやったら訴えられる」みたいな思い込みしてる人がいます。
ハッキリ言うとコスプレイベントだって(特定作品の公式イベントでもない限り)権利者の許可なんて取ってません!
あくまで更衣室や撮影機材持込などができる〝場所〟を提供し、何かトラブルがあったらスタッフが間に入ってくれたり、事故があった際の補償をしてくれる(まともなイベントならば)だけです。
キャラクターを事前申請して、権利者にお伺いを立てて、参加費から利益分配して…みたいな事をやってたら大変な手間と時間がかかりますし、もし「公認」した場合、そこで発生した問題に対しても何らかの責任を負わないといません。
これは自治体が補助金を出しているような街おこし系イベントや省庁など行政機関が後援しているイベントでも同じで、1個ずつの権利者に許可は取っていません。
少なくとも「コスプレイベント以外での野良コスプレは著作権法違反!」みたいなよくある学級会は、前提が少々おかしいです。違法行為だとしたらイベントの内外は必ずしも関係ないでしょう。
正直、著作権(を含めた知的財産権)に関してはどこまでOKかというラインがどうしても曖昧で、このケースがアウトだけど類似の別件に関してはセーフみたいな事も多々あって、また権利者によって対応が温度差ありまくるので、ファンとしては公式のビジネスを邪魔しない範囲・迷惑をかけない範囲を何となく探りつつやってるような感じがあります。
以上、公共スペースでのコスプレの法的な話でした。
これとは別にSNSなどにアップした際の公衆送信権の話がありますので次。
[時代に合わなくなった公衆送信権の問題]
著作財産権における公衆送信権は、私的利用でも例外とはならない部分です。
放送やネット配信で他人の著作物をそのまま流したら、個人だろうが企業だろうが非営利だろうが関係ありませんから、そもそも私的利用というような概念が存在しません。前述のようにマリカー裁判でも任天堂は当初この公衆送信権(店のHPに載せていた)でも訴えていましたが、裁判では著作権ではなく不正競争防止法違反で判決が出ました。
この法律では元著作物とファンアートや二次創作(二次的著作物)が区別されていないので、コスプレはするだけならば私的利用となる可能性が高いけど、それをSNSにアップする行為は公衆送信権の侵害になる可能性はあります。
本来は元の著作物を権利者の許可なく勝手に放送や上映してはいけないという法律なので、個人が二次創作したイラストやコスプレ写真をSNSにアップして見せ合う事なんて、法律を制定した時代には想定されていなかったのです。
近年、ゲーム系のコンテンツを中心にファンアートやゲーム画面のSNSへの投稿に関してガイドラインを設けて一定条件化で許可しているコンテンツが増えたのは、主にこの公衆送信権への対応と思われます。
ただしこれもコスプレ画像の投稿だけで実際に権利者からの法的措置に至ったケースは確認できませんでした。仮にあったとしても水面下で穏便に済ませるでしょうから、表沙汰にはならないでしょうね。
(コスプレ画像がエロ過ぎて公式から警告食らった~系の噂はよくありますが真偽を確認できないのと、本人が武勇伝的にフカシてる可能性が高いのでここでは無視しています)
以下、第二部 歴史的経緯から見る公共スペースでのコスプレ忌避の流れ に続きます。