※コスプレにおける因習とされるものが、いつ発生して何を守ってきたか、どう広まったか、それがなぜ風化していったのかを解説するブログです。だいたい2万文字あるので時間ある時に読んでね。
そろそろクールダウンしてきたというか忘れられてきた頃ですね。
「好き/嫌い」と「良い/悪い」は分けて考えるべきで、混同してはいけません。
最初の議題だった「大阪万博会場で一般入場者のコスプレの可否」については、運営者である万博の担当者から「禁止している訳ではない」「実際には個別判断」という公式回答も4月末段階で早々に出ていますから、客観的に見てもこれで決着しています。
さらに5/18日本橋ストリートフェスタ開幕式では大阪市長が進撃の巨人コスしながら「万博会場でもコスプレをしてる方、ポップカルチャーを楽しんでおられる方がたくさんいらっしゃいます」と好意的な挨拶しちゃったのでここでもうダメ押しです。
それでも「万博会場で一般入場者による版権コスプレは条件付きOK」という事実に納得できない人達は現在、一部が匿名アカウントから当事者の方の他の言動をあげつらう形で個人攻撃へと移行していますが、正直、初期のような拡散力はもうありません。
この議題自体が割と飽きられてるからです。ええ。
気になるのは他人を著作権侵害で攻撃してやろうと盛り上がっていた人の中に、むしろ名誉棄損の方で先に構成要件を満たしてしまってるケースが結構な割合で存在する事です。
他人への攻撃を、自分の人生と引き換えに行う価値はありません。
一方で「因習村」という言葉で、コスプレイヤー達の閉鎖性をあげつらう方々も大変よく見かけます。
実際、私もこうした「コスプレ村」「因習」という言葉は過去に何度か使っていて同人誌にもゲ謎グッズ議題で表紙に記していますが、こういう言葉は村の住人や中身を理解している人から自嘲や自虐を込めて使うものであって、今やまったくの門外漢というか害悪インフルエンサーの人達にまで侮蔑や嘲笑を込めて「コスプレ因習村」呼ばわりされる状況が正しいとは思いません。また雑に単純化されてツイッターおじさん達による“女叩き”に理由されるのも御免こうむるのです。
一応は自分もコスプレ村の価値観に居心地の良さも感じている村民経験者ですので。価値観が現代に合ってない古さは認めつつ、一方的に馬鹿にされるべきものでもないと思います。
一応は自分もコスプレ村の価値観に居心地の良さも感じている村民経験者ですので。価値観が現代に合ってない古さは認めつつ、一方的に馬鹿にされるべきものでもないと思います。
2~3週間くらい続いた、まるで建設的な議論になっていない攻撃的な喧騒を見て、色々と辛くなってしまった人は多いんじゃないでしょうか。私はそうです。
でも騒がれているそれが“因習”だとして、ある時期まではやはり村を守り、村人たちを守る意味はあったのです。
それが成立した経緯や、何を守る趣旨だったのか?どうやって広まり、どうして時代とずれていったのか?そして急速に風化しつつあるのか?…を知っておく事で、もっとちゃんと考えたり、モヤモヤしてる部分をスッキリさせる事もできます。解像度が上がれば気持ちもラクになれます。もう考えたくも無ければ別にいいけど。
万博コスに否定的な人の中にも“コスプレ文化を守るために隠すべき”と、“コスプレ嫌いだから視界に入れたくない”人がいて、立場は逆なのに何故か収れん進化のように同じような論法を用いているのですが、ここでは主に前者の人達の話をします。
なるべく丁寧な言葉で、「因習」とされるものの歴史的経緯や、起こりがちな対立の構造を、お節介にも解説していきます!!
なお、私は“事象”のみ興味があるので、個人の擁護は目的としないのである。騒動となった当事者の方の、その他の言動に関してはあまり賛同してません。あくまで万博コス騒動からコスプレ村の因習を村民の視点で考え直すという趣旨で以下、長々と話すのです。
あ、始める前に注意書きですが、非レイヤー層の皆さんがこのブログを読む場合、「その着せ替え人形は恋をする」「2.5次元の誘惑」で聞きかじった程度のコスプレ知識は今だけ押入れにしまって忘れてください。アレはあくまで商業的に理想化されたコスプレイヤー像なので、フィクションとして面白いですがあまりレイヤーから見るとリアリティは無いです。←村民視点
[参考資料 ネットニュース系]
●フォーカスオンEXPO:万博会場のコスプレ賛否 入場は個別判断「やり過ぎはよくないが…」 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20250429/k00/00m/040/102000c
(万博協会の担当者に取材、「(コスプレを)やめてほしいというわけではなく、ルールを守っていれば入場は可能」「程度の問題で、実際には個別の対応になる」と言質を取っている)
●「大阪・関西万博でコスプレは禁止されている」は誤り。公式サイトで「装着しての入場は可能」と案内(篠原修司)-Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/bc8fd83ca704933fe7a466a537f2f37a6dddd10e
●“万博でコスプレ”が炎上、「著作権侵害」の声も 当事者コスプレイヤー「タブーにするのではなく…」 ENCOUNT
(ENCOUNTのタイトルは記事公開時「白黒つけるべき」と記載されていたが、これはご本人の発言ではなく、ライターが誘導して発言させた言葉がタイトルになっているという状況らしいと、文春オンライン他で説明あり。後にENCOUNTが記事タイトル差し替え)
●ニコニコニュース・日本橋ストレートフェスタ2025開会式での横山英幸大阪市長の挨拶 Twitter
「万博会場でもコスプレをしてる方、ポップカルチャーを楽しんでおられる方がたくさんいらっしゃいます」と、万博協会の理事でもある大阪市長(進撃の巨人コス)から歓迎の意。
[今回の目次]
1,大阪万博のルールおさらい
2,“コスプレ界のルール”は誰も作っていません
3,本題:コスプレ村のオキテ、発生から拡大、そして風化までの歴史
4,コスプレと著作権の話:簡易版
5,オープン派/隠れる派での住み分け論、上手くいかない理由
6,個人の言動への批判は、万博コスの是非とは別に考えるべき
7,まとめ:繰り返される議論の先に
2,“コスプレ界のルール”は誰も作っていません
3,本題:コスプレ村のオキテ、発生から拡大、そして風化までの歴史
4,コスプレと著作権の話:簡易版
5,オープン派/隠れる派での住み分け論、上手くいかない理由
6,個人の言動への批判は、万博コスの是非とは別に考えるべき
7,まとめ:繰り返される議論の先に
■1,大阪万博のルールおさらい
・コスプレまたは仮装をしての入場は可能ですか。 – よくあるご質問 Expo 2025
https://faq.expo2025.or.jp/hc/ja/articles/4716907837726-%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AC%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%81%AF%E4%BB%AE%E8%A3%85%E3%82%92%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%AE%E5%85%A5%E5%A0%B4%E3%81%AF%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%8B
・持込禁止物・禁止行為に関する来場者向け規約 PDF
https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/themes/expo2025orjp_2022/assets/pdf/tickets-index/prohibition_ja.pdf
厳密にいえば万博会場は、非常に公共性が高いものの公共スペースではなく、明確に管理者や運営者が存在する私有地ですので(公共交通機関と呼ばれるものが鉄道会社の私有地なのと一緒)、運営側の裁量として入場者へのルール決定権があります。
普通に日本語として読めばこれは「更衣室は用意しないけど、持込禁止物(武器類は玩具や手作り品も不可)に該当せず、顔を隠さず、公序良俗に反しない程度のコスプレならOK」というルールに読めるハズです。集客と運営コストを考えて線引きをする立場の人達が、“ここまではOK”という線引きをしました。それだけです。
ではこれがなぜ「万博はコスプレを実質的に禁止している」に曲がった解釈をされてしまうのかといえば、「更衣室が無い=コスプレ禁止」(あるいは「そもそも一般人と混在する場所でコスプレするべきではない」)とする、古いタイプのオタク向けイベントの暗黙のルールで解釈する人がいるからです。
確かに昔のオタク向けイベントではコスプレに関して「更衣室は用意しておりませんのでご遠慮ください」として禁止するような表記も度々ありました。
しかしこれは万博なので、誰にもわかるようなルールの書き方をしますから、そのまま読むべきです。
もし本気で更衣室無し=コスプレ禁止を前提にするのであれば、わざわざ持込禁止物や顔を隠すマスクへの注意事項まで記述する必要もありませんよね。
行間を読み過ぎて本文が読めていない、変な解釈の仕方だと思います。
ではなぜ、日本のコスプレ界では更衣室無し=コスプレ禁止と受け取る文化があったのか?公共の場でのコスプレがなぜ忌避されてきたのか?
本題に入っていきます。
テーマ&構成上、昨年書いていた「歴史と資料から見る「公共スペースでのコスプレ」議論2:歴史的経緯から」と被る部分が多いですがご了承ください。
■2,“コスプレ界のルール”は誰も作っていません
まず勘違いの多い事ですけど、コスプレイヤーが活動を始めるに至って、どこかで免許取ったり届出する必要は無いですよね?コスプレイヤー全体が何かの協会や業界団体に所属して統一ルールに従ってる訳じゃありません。過去に何度も業界団体を作ろうとして頓挫したり、結局は地域限定のローカル団体の規模になってますから。
だから、“コスプレ界のルール”自体は誰も発行しておらず存在しません。
存在してるのは、各イベント団体や撮影スタジオごとのルール、あるいは会場などのルールといったローカルルール。その上は法律や自治体の条例です。
公共の場でコスプレする事自体を禁じた法律はありません。禁じられているのは武器類が銃刀法、下着など露出が軽犯罪法や迷惑防止条例、特攻服は一部自治体では暴走族排除条例…といった個別の禁止事項であって、コスプレそのものの禁止ではありません。著作権侵害に関しては権利者が判断する親告罪ですし、公式ライセンス衣装ならそういった問題も発生しません。
公共の場でコスプレする事自体を禁じた法律はありません。禁じられているのは武器類が銃刀法、下着など露出が軽犯罪法や迷惑防止条例、特攻服は一部自治体では暴走族排除条例…といった個別の禁止事項であって、コスプレそのものの禁止ではありません。著作権侵害に関しては権利者が判断する親告罪ですし、公式ライセンス衣装ならそういった問題も発生しません。
なので実際にはコスプレ界のルールのように思われてるものは“マナー”“暗黙の了解”“配慮”といった実体の無いものですが、前述の通り協会や業界団体などが責任を負って発行したルールではなく、歴代のコスプレ活動してきた人達の間で自然発生的に広まってしまったものなので、地域ごとに事情が違ってたり時代とずれてたり元々の趣旨を失ってたりしてても明確に撤回・変更できる立場の人間が誰もおらず、独り歩きしてしまってるのです。
本記事ではこれらを、明文化されたルールとは別の“コスプレ村のオキテ”という言葉で表現します。
■3,本題:コスプレ村のオキテ、発生から拡大、そして風化までの歴史
[80年代~ コミケでコスプレルールが生まれていく]
●コミックマーケット年表
https://www.comiket.co.jp/archives/Chronology.html
●コミックマーケット30周年史『コミックマーケット30’sファイル』PDFの公開
https://www.comiket.co.jp/archives/30th/
(PDFで無料公開されてる部分のp234以降がコスプレ関連項目)

話は昭和にまでさかのぼります。
そもそもの発端ですが、まだコスプレしてオタクが集まれる機会が極めて限られていた頃、その中心はコミックマーケットでした。
1983年のC23、近隣住民からの苦情を元に、警察からの「風紀を乱す」という要請が入り、まず「会場外でのコスプレ」が禁止になります。当時は「うる星やつら」ブームの頃ですね…何が問題になったか説明するまでもありません。
段階を経て「コスプレのままでの来場禁止」「コスプレは更衣室を使用する」という風にルールが追加されていきます。でもコスプレのまま来場が禁止されてからも更衣室が無く物陰で着替えていたので、女子更衣室が初めて設置されたのは1988年のC34、男子更衣室は1991年のc36になってから設置だそうです。
問題を抱えながら巨大化する過程で、どうしてもコミケ参加者や当時の準備会スタッフからは“コスプレ不要論”が根強く、同人誌を主体としつつコスプレも制限しながら残すために、この時点でコミケでは「コスプレのまま来場禁止。必ず更衣室を使用する」という現行ルールの基礎が出来上がりました。
対して1988年に始まった赤ブーブー通信社のコミックシティは元が同人誌印刷会社のイベント部門であり、あくまで同人誌をたくさん刷って売買してもらうためのイベントでしたから、早期にコスプレを禁止しています。コスプレして集まれる大型イベントがコミケの他には殆どありませんでした。


資料:2005年発行のコミケ30周年記念誌のコスプレ項目では、上記の更衣室の統括を20年近く勤めていた牛島えっさい氏の寄稿で、コミケ内でコスプレのルールや風当たりが厳しくなっていく過程が記されている。だいたいの問題は著作権ではなく露出度や安全面で起きているのは現在でも同じ…。(PDFリンク)
[90年代~ コミケルールがコスプレイベント全体へと拡大]
1990年代に入ると対戦型アーケードゲームや家庭用ゲーム次世代機戦争によるグラフィック向上を経て、格闘ゲーム・RPGゲーム、さらにセラムンブームなど重なってコスプレイヤー人口が急拡大していきます。
この時期、同人誌即売会以外とは別に、独立した小規模コスプレイベント(まだデジカメが存在しないのでアニソンダンスパーティ形式です)が立ち上がっていきますが、その多くがコミケのコスプレルールをほぼそのまま転用していました。
別にコミケは同人誌即売会なのでそのコスプレルールを他所が模倣する必要は無かった筈ですが、創世記・黎明期のコスプレイベントはとにかくコミケの例に従ったのです。
いわばコミケのコスプレルール=コスプレ界全体のルールの様に扱われていた訳です。
つまり元は著作権云々ではなく、露出度の高い衣装への警察から風紀上の指導で「コスプレでイベント参加する際は必ず更衣室を使用する事」だったのが、いつの間にか「更衣室のあるイベント以外ではコスプレ禁止」に誤認され、訂正されないまま広まっていったのです。
それは法律論ではなく、イベント団体が定めたローカルルールでもない、でも共通認識のように持たれていた“コスプレ村のオキテ”みたいなものでした。
社会全体に目を広げると、平成の始まった1989年に逮捕された連続幼女誘拐殺人事件の容疑者がコミケへのサークル出展歴を持っていた事から、90年代前半にかけて全国的な“オタクバッシング”“有害コミック規制運動”が始まります。
1995年にはオウム真理教の地下鉄サリン事件が発生し、異様な服装をした集団(オウムは当初、駅前で変な格好での路上パフォーマンスを行っていた)に対する社会不安が広がります。
ロリコンもオウムも最初は“面白い変わり者”として見られていたのが、社会への脅威に変貌しました。
世間からオタク文化への不安視、犯罪者予備軍の扱い。そして扮装した集団への危険視が強くなった時代において、徐々に拡大しつつあったコスプレイベントは、しかし徹底的に世間の目から隔離するようになります。
この時代においては「(更衣室のある)イベント以外ではコスプレ禁止」という共通認識は、たとえ誤解から広まったとしても、それはそれで仕方なかったのでしょう。
とにかく会場の内と外を隔離し、世間から隠れなくてはいけなかった…当時を生きた人間としてもそう思います。
“村のオキテ”として、世間の目から隠す事でトラブルからコスプレイヤーを守り、文化を守ったのが実態です。
それもまた集客のためです。何かのビジネスに組み込まれるという事は、世の中に居場所ができるという事でもあります。(1回目)
もしも90年代にコスプレ集団が街を歩いてるのを一般人が見かけたら、信仰宗教やカルト集団に誤認されてすぐ通報され、警察が呼ばれていたでしょう。それがもしイベントに向かう会場周辺であったら、施設側にも迷惑がかかって二度とイベントに貸し出しをしてくれなくなります。
世間に味方はいません。
“村の外は敵”“一人の不始末が全体の禁止につながるかも”という意識が、コスプレ村のオキテ=「(更衣室のある)イベント以外ではコスプレ禁止」を支える大前提となっていました。そこに特別感や背徳感を抱えて。
また、この誤解はコスプレイベントを主催する団体にとってはとても都合の良いものでした。だって「(更衣室のある)イベント以外でコスプレ禁止」という認識が共通していれば、コスプレしたい人は皆、イベントに参加してお金を払ってくれますから。


資料:インターネットが普及していない90年代において、毎月発行で全国の同人誌即売会やコスプレダンパ情報を掲載していた「C-NET」。アニメショップでも販売されていたので購読した人は多い。ワープロ打ちの圧縮掲載で紙面の文章量を軽量化する必要があり、全イベント共通の禁止事項ページに「コスプレのままでの来場禁止」が記されていた(赤枠)。これが“コスプレ村のオキテ”が拡大した理由でもある。実際には一律ではなく新宿歌舞伎町のダンスクラブ絵夢などはコスプレのままで来場可であった。
なお、コミケ準備会更衣室担当のえっさい氏、C-NETの南編集長(となりでコスプレ博の福島代表と同一人物)ともに、ルールを厳しくせざる得なかった時代と立場の人でもあり、緩くできるならその方が良いという意向を示している(いた)。
[00年代~ SNSによる相互監視・同調圧力の発展]
2000年代に入る頃にはパソコンとデジカメが徐々に普及し、2chのコスプレ板(1998年~)、コミュニティサービスmixi、各社の個人ブログサービス、コスプレ画像投稿サイトのCure(ライブドア傘下に入るのは2005年)、交流型サイトのコスプレイヤーズアーカイブ(2007年~)など、個人での情報発信手段が発展していきます。
2000年代に入る頃にはパソコンとデジカメが徐々に普及し、2chのコスプレ板(1998年~)、コミュニティサービスmixi、各社の個人ブログサービス、コスプレ画像投稿サイトのCure(ライブドア傘下に入るのは2005年)、交流型サイトのコスプレイヤーズアーカイブ(2007年~)など、個人での情報発信手段が発展していきます。
コスプレイベントの目的も、“アニソンでダンス”から“写真を撮影してWEB掲載”に変化していきます。
“踊る”から“撮る”にシフトした時代のコスプレイヤー、クオリティ重視でアート志向が高くなるので、よく言えば“熱い”、悪く言えば“意識が高い”“面倒くさい”人も増えます!
これらのWEBサービス上では、更衣室のあるオタク向けイベント以外でコスプレをやってる人を見つけると、大騒ぎになって糾弾します。
Cure、カイブなどへの登録はコスプレイヤー共通の必須条件となり、SNSを通じてコスプレイヤー達が巨大な一個のコミュニティを村のように形成し、そして村人同士による相互監視の手段にもなったのです。また、この時期から著作権の話が付加されるケースが目立ちましたが、権利者から何か公式に注意喚起が行われた訳ではなく、後で考えたら同調圧力の理由付けとして危機感を煽ったのかもしれません。
“村のオキテ”を破った人間が吊し上げされて責められて、謝罪しても「あなた一人のせいでコスプレ全面禁止になったらどう責任を取るつもりですか!?」(※そのような事態になったジャンルは無い)みたいに余計攻撃されて活動休止に追い込まれたりする光景が、ある種の生贄というか儀式化してしまった面はありました。
正直、筆者もこの時期にはそうした“村のオキテ”を破る人に批判や注意を投げるタイプのめんどくさいレイヤー側だったので、その心境は理解できるのです。
これらコミュニティ内の相互監視と同調圧力で縛り合ってる状況を“因習村”と例えるのであれば、そうでしょう。
コスプレイヤーは数年ごとに大半が入れ替わるため、既に80-90年代のルール導入の経緯などは知らない人達が多い世代に代わっていますが、特にSNS上では一部の“声の大きい人達”が目立ってしまいますし、新人レイヤーにとってはそうした人達からの影響で刷り込みが起きます。
今でもそうですが、同質性の高い集団ほど、どうしても視野狭窄や先鋭化を起こしやすいですから。
今でもそうですが、同質性の高い集団ほど、どうしても視野狭窄や先鋭化を起こしやすいですから。
地域や活動形態によりますが、概ね90-00年代辺りにコスプレを始めた人は、「コスプレは嫌われている!」「一般人から隠すべき!」「更衣室のあるイベントでコスプレするのはもっての外!」…この考え方を強く持ってる人が多いです。
2005年頃からの電車男ブーム・アキバブーム・メイドブームがあって以前の犯罪者予備軍よりはポジティブなイメージになりつつありましたが(ここで入ってきた層との摩擦もありました)、とはいえまだ世間からの扱いは「オタク=キモイ」というバカにした図式がまかり通っていた頃ですから、まだまだ“村の外は敵”です。
世間は自分達の事なんてわかってくれない…という思いが村の中での結束を強め、規範に外れた者を徹底的に攻撃します。
とはいえ、00年代に公共スペースでコスプレを披露したがる人ってのは、アキバのホコ天で女装コスで踊ってたり、路上撮影会と称して下着露出して迷惑防止条例違反で逮捕されてたりした人であって、当時の言葉だと“電波系”(脳に何かの電波を受信して奇行に走る人)が圧倒的に目立ってしまったので、イベント以外での公共スペースでのコスプレを“野良コス”と呼んで罵倒するのがまかり通っていました。
この00年代は同人誌でもコスプレでも、責任あるイベンターや権利者が発表したものではない“俺ルール”“疑似著作権”みたいなものが、声の大きな人達によって広まってしまった時期でもあります。
これが、概ね2010年代に入るとグラデーションのように徐々にですが変わっていきます。
これが、概ね2010年代に入るとグラデーションのように徐々にですが変わっていきます。
コスプレの入口や楽しみ方が広がり、メディアでの扱いも変わったからです。

資料:SNSコスプレイヤーズアーカイブ内でも悪名高き「コスプレ知恵袋」コーナー!ここでも「イベント以外 コスプレ」で検察すると質問が多々出てくるが、純粋に質問しただけで問答無用で怒られる程度にはタブー視されていた。
ちなみにカイブの運営会社は現在CLAP'S(推しレイヤー応援アプリ)にシフトし、課金バトルを勝ち抜いたレイヤーを駅の大型ポスターやローカル放送の深夜CMに起用(という建前で各レイヤーの応援者に課金させるビジネス)を展開している。
[2010年代~ コスプレイベントの大型化で一般人との境界が曖昧に]
大きな流れとして、名古屋で続く世界コスプレサミット(元はテレビ愛知主催、2005年の愛知万博への便乗企画として2003年開始)が、名古屋市や愛知県や外務省の後援を取り付けて、10年かけて街全体を使ったフリーダムなイベントに発展したのが大きいです。更衣室を使用しなくてもコスプレのまま公共交通機関も使えて来場できるという光景は衝撃でした。
コスサミは初期はコスプレ業界の人が殆ど関わっておらずTV局主催だったので、意図的に日本国内ではなく海外のイベントを模していたのです。
それまでテーマパークでも一般人と混在するコスプレイベントは存在しましたが、テーマパークはあくまで“非日常”の空間でした。それが、公園や商店街や街全体という一般人にとって“日常”の生活空間が突然コスプレイベントの会場になるのです。議論はありましたが、それ以上に無視できない盛り上がりや地域経済へのプラス効果がありました。
元々の国際交流の他に、地元へ落ちるお金…経済効果も注目され、折からのアニメ聖地巡礼ブームとも重なって、同種の町おこし系コスプレイベントは各地に飛び火していきます。
自治体や観光協会が地元のお祭りとコラボしてコスプレイベントに手を出す目的は更衣室使用料の徴収ではなく、なるべく沢山の人に来てもらって地元の交通・宿泊・飲食などにお金を使ってもらう事なので、更衣室にかけるコストを減らす傾向があります。
それもまた集客のためです。何かのビジネスに組み込まれるという事は、世の中に居場所ができるという事でもあります。(2回目)
(名古屋市に至っては2014年から「コスプレホストタウン宣言」を発し、イベント以外でも公園や公共交通を使っての積極的なコスプレでのロケ誘致も行っています)
そして現在ではコスサミでも一部アコスタでも「更衣室無しコスプレ参加券」という、何にお金を払ってるんだかよく分からない参加チケットまであります。
ただし、町おこし系のコスプレイベントや観光協会のコスプレロケ誘致ってのは地方都市で盛んですが、人口規模の多い首都圏ではあまり発展しませんでした。
地権が複雑で、全てが密集している首都・東京ではなかなか街を挙げて協力体制にはなりませんし、秘密結社アニメイトとドワンゴが共催する都内最大規模の池袋ハロウィンコスプレフェスでも必ず更衣室を使用し、事前にコスプレ可能エリアを厳密に設定し、コスプレのまま入店可能な施設をリスト化しておく(地方都市では範囲は厳密ではなく、私有地禁止、店舗はダメって言われなきゃ入っていいというゆるい運用が主)、そして破った者は炎上…みたいな殺伐とした事例がありますから、首都圏と地方都市でも温度差があります。
資料:愛知万博への便乗TV企画から生まれた世界コスプレサミットは、賛否はあったが街を広範囲を使用して一般人の日常空間と混在する大型コスプレイベントの新たな形と、地元の政治家が(何とも言えないクオリティで)コスプレする光景をつくった。
それ以外の大きな流れとして…
2014年頃から渋谷の暴動が伝えられるようになったハロウィンですが、日本の秋季の数少ない大規模ビジネスイベントとして定着してしまい、これに便乗した店舗や施設では「コスプレ歓迎」(更衣室無し)などを謳う場合があります。
2020年に「ツイステ」ブームでオタク方向で沸騰したディズニーハロウィンの全身仮装日でも、更衣室はありません(ディズニーや川崎のハロウィンは97年から。Dハロ全身仮装日は02年からある)。
仮装とコスプレの違いも度々議論されますが法律的な定義の違いはありませんし、ハロウィンでも(コスプレイベント以外で)版権キャラの本格的なコスプレをして街を歩いてる人は見かけますけどコスプレそのものを理由に逮捕される例はありません。ハロウィンでの逮捕者は基本的に器物損壊や暴行の容疑ですので。
2020年に「ツイステ」ブームでオタク方向で沸騰したディズニーハロウィンの全身仮装日でも、更衣室はありません(ディズニーや川崎のハロウィンは97年から。Dハロ全身仮装日は02年からある)。
仮装とコスプレの違いも度々議論されますが法律的な定義の違いはありませんし、ハロウィンでも(コスプレイベント以外で)版権キャラの本格的なコスプレをして街を歩いてる人は見かけますけどコスプレそのものを理由に逮捕される例はありません。ハロウィンでの逮捕者は基本的に器物損壊や暴行の容疑ですので。
ハロウィンと同じように、更衣室は用意しないけどコスプレでの来場OKとしたイベントや施設も増えていきます。
大阪でいえば先にテーマパークのUSJがアニメコラボでテコ入れを図る中で「パーク内での仮装について」という明確なルールを設定して条件付きOKにしていますし、このページを読めばほぼ大阪万博でのコスプレルールも、USJを簡易化して踏襲していると気が付くでしょう。
https://www.usj.co.jp/web/ja/jp/service-guide/rules-manners#costumes
それもまた集客のためです。何かのビジネスに組み込まれるという事は、世の中に居場所ができるという事でもあります。(3回目)
万博コスプレの件も、大坂や名古屋の人から見たら、何も問題とは思わない人の方が多いでしょうね。
近年はタレントがTVの企画で本格的なコスプレを披露する番組があったり、個人的をSNSにコスプレ画像を投稿したりもします。コスプレイベントを好意的に取材して紹介するTV番組もあります。地域のお祭りで政治家がコスプレ姿で挨拶もします。
そうしたTVやSNSの画像を見て、あるいは町おこし系のイベントに遭遇して生でコスプレを見て、自分でもコスプレを始める若い子も珍しくありません。
そうしたTVやSNSの画像を見て、あるいは町おこし系のイベントに遭遇して生でコスプレを見て、自分でもコスプレを始める若い子も珍しくありません。
(SNSのフォロワー稼ぎや投げ銭を稼ぐ目的でコスプレ披露を行ってるインフルエンサーもいて、小賢しいにも程があります←村民視点)
(ハダカ路線の有名人がタレント売りして微妙な扱いされるのは勝手ですが、大手広告代理店の都合で「プロのコスプレイヤー」としてクールジャパン予算を引っ張るための神輿に担がれてるみたいな現象は馬鹿げてるので関係者一同、腹を切っていただくのが正しい日本文化です←村民視点)
[2020年代~ 村の外で何が起きているのか?]
特に2020年以降のコロナ禍でコスプレ活動を始めた人だとイベントが軒並み中止の時期を経ていますから、既存のコミュニティには良くも悪くも染まっていません。イベントのローカルルールと法律や条例という社会のルールの違いを知っていますし、そのどちらでもない“村のオキテ”はもう重要視されません。
今からコスプレイヤー全員を再び“村のオキテ”で意思統一しようにも、じゃあ皆でコスモード読んでCureとコスプレイヤーズアーカイブ使って情報交換してた時代に戻れますか?…無理ですよね?
日本経済が沈没する中、オタクの旺盛な消費行動や外国人旅行者によるインバウンド消費が経済や文化の一つに組み込まれていく事で、オタクへの偏見が減ってきて、世間がコスプレに対しても以前ほど嫌悪感や敵意を持たなくなってるんですね。
そしてオタクの側も、以前ほど自分の好きなものを一律で隠す必要が無くなりつつあります。コスプレ趣味も今や特別なものではなく、世の中に沢山ある趣味の一つに過ぎません。アイドルが当たり前のように「趣味はコスプレです」と言えてしまう時代です。
一般人全般が別にコスプレを好きになった訳じゃないけど、「見慣れてしまった」「どうでもよくなった」という意味です。
筆者は遊園地や商店街のイベントに行って、偶然コスプレイベントに遭遇してしまったであろう一般人の反応を観察するのが趣味&ライフワークなのですが、2010年代に入ってから明らかに一般人の反応が(汚物を見るような視線が減って)軟化していきました。
「一般人がコスプレを見たら不快に思う人もいる」への答えとしては、「不快に思う人も、面白がる人もいる。そして大概の人にとってはどうでもよい光景である」が答えだと思います。誰もが迷惑なのではなく、人によっては不快レベルのものを禁止していくとキリが無いので、明確な管理者のいる施設や会場ではその“線引き”に従うべきでしょう。
“村のオキテ”が必要とされた頃の“村の外は敵”“一人の不始末が全体の禁止につながるかも”という前提がもう、若い世代に行くほど薄れ、風化しつつある訳です。上の世代から見ると危うさも感じますし特に態度は増長ではないかと思う部分も多々あるのですが、それは幸福な事でもあります。
かつて連続幼女殺人事件からの有害コミック規制運動=オタクバッシングや、オウム事件での扮装=カルト集団扱いを経験した世代にとっては隔世の感がありますが、それが現代日本の光景です。
それもまた集客のためです。何かのビジネスに組み込まれるという事は、世の中に居場所ができるという事でもあります。(4回目)
(SNSで反オタク感情を吠えてる人はいるけど、それ世間で多数派は構成していないんですよ…SNSでは極論ほど目立つだけで)
禁止されてないなら何をやってもOK、では無いにしろ、とにかく隠せ!隠せ!は通用しなくなったのです。
× × × × × × × ×
以上、オープンに楽しむ派も隠すべき派も、こういった歴史的背景を知っておいて損は無いです。
特に90年代後半-00年代にコスプレを始めた人は既に“村のオキテ”が絶対的なものとして確立してから入ってるので、大本の80-90年代前半にコミケでの更衣室ルール設定やそれが転用されて広まった詳しい事情までは学ぶ機会は無いでしょうし、近年始めた人たちにもこういった背景を知ってもらう事で、今ある光景が当たり前のものではなかった事にも気づけると思います。
議論するにも「昔からそう決まっていた」では説得力がありませんし、反論するにも法律論や歴史的経緯を知っておくべきでしょう。
いつかまた大事件が起きて、オタクへの風当たりがきつくなる時が来るかもしれないので。
[ここまでの歴史的経緯ポイント]
・元はコミケが警察の要請を受けて「コスプレでイベント参加する際は必ず更衣室を使用する事」だったのが、小規模コスプレイベントがこれをコピーして転用していった事で「更衣室のあるイベント以外ではコスプレ禁止」に誤認されて広まる。
・2000年以降はさらにSNSを介した相互監視が加わり、意識の高いレイヤーがより強くこの意識を持つようになる。
・概ね2010年代から各地で町おこし系コスプレイベントが広がったり、ハロウィンと交雑したりして、一般人との境界が曖昧になり、また更衣室を使用しないコスプレOKイベントや施設も出現している。
・一般人が昔ほどオタク文化やコスプレそのものを危険視していないため、隠す事で文化を守ってきた“村のオキテ”の前提が消えつつある。

【セーブポイント!】 ここら辺で記事の半分ちょっと。もっとも重要な章は終わったので、読んでて疲れた人はこの画像を目印にいったん休憩してまた読みに来てくださいね。
■4,コスプレと著作権の話:簡易版
これも過去のブログで実際の事例から挙げていますので、興味ある人は読んでおいてください。
●歴史と資料から見る「公共スペースでのコスプレ」議論1:法的な事例https://zubunuretiwawa.ldblog.jp/archives/61964633.html
まず非常に多い勘違いですが、「コスプレは著作権侵害なのでコスプレイベントやスタジオで行う」という意見があります。間違いです。
なぜならコスプレイベントだって、権利者の許可を得てイベントやってる訳じゃありませんから。払った参加費から元の出版社やゲーム会社にお金が行く訳でもありません。たまーーーに存在する公式コラボを謳うイベントを除けば、コスプレイベントの団体が取ってる許可というのは会場施設や公園・道路の使用許可であって、著作権的な許可ではありません。
著作権侵害の可能性を問うならコスプレイベントであれスタジオであれ公園であれそして万博であれ、同じなのです。ただしコスイベ内だと他のレイヤーと紛れるので、公式のアトラクションに間違われないというメリットはあります。
また、(商売に利用しない)コスプレする行為そのものが著作権侵害になるかというと、判例が無いですし程度によりけりですが、必ずしも侵害にはならないです。
まずシンプルな制服や伝統的な民族衣装まで衣装デザインを全部著作物として認めてしまうと服を作れなくなってしまうので、特徴的な形状をしていない限り、あるいはそれを特許庁に申請して立体商標権や意匠権として対象に登録しておかない限り、服飾や髪形だけでは著作権の保護対象にはなり難いです(着ぐるみ後述)。
著作財産権における「翻案権」「複製権」などは「私的利用」による除外があります。
著作権法の目的として「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」とあるので、文化が模倣行為から広まるものとしてある程度は許容されています。
なお、私的利用の範囲がどこまでなのかは議論がありますが、コスプレしてるだけで権利者から翻案権や複製権の侵害で訴えられたケースが無いので、判例がありません。
ただしコスプレ画像のSNSなどに公開する行為に関しては、同じく著作財産権における「公衆送信権」だけは私的利用でも例外とならない強い制限がかかっているのでもしかしたら侵害となる可能性もありますが、これは本来は映画などを勝手に上映・放送されないための権利であって、個人による二次創作(二次的著作物)をSNSでアップする前提の無い時代の法律ですから、厳密に解釈してしまうといささか時代に合ってない感もあります。
こちらもコスプレ画像をアップしてるだけで権利者から公衆送信権の侵害で訴えられたケースが見当たらないので、判例がありません。
あきらかに営利目的だったマリカー裁判の際は、任天堂からの公衆送信権侵害の訴えを、裁判所では法的な可否を判断せずに“不正競争防止法”に切り替えて損害賠償の判決を下しています。
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過去に権利者から著作権侵害で法的措置(裁判を経て損害賠償)まで行ったケースは、いずれもコスプレ衣装を無許可で製造販売していた業者(オーダーメイドではなく規格品として量産した)です。いずれも無許可で堂々と商売していたからですね。
それ以外で、法的措置まで行かずに警告や注意喚起が出たケースも若干ながらあります。
“公共の場でコスプレしただけで権利者から警告や注意喚起されたケース”としては非常にレアですが、ウルトラマンの着ぐるみで街を歩き回っていたケースと、プリキュアの着ぐるみで公園で子供たちと非公式グリーティングしていたケースがあります。これらは作品の主な対象が児童であり、公共の場で公式のアトラクション用と区別できない着ぐるみでコスプレしていたために注意喚起された訳ですね。
コスプレイベント内だと一応、他のレイヤーと紛れて公式アトラクションではないと分かりやすいので問題視されないのでしょうが。
似たケースとして、公共スペースではないものの東京ドームシティでのコスプレイベントでは、Gロッソでのショー開催時は特撮ヒーローのコスプレでは移動範囲が制限されます。一部プリキュアショー公演会場でも大人ファンによるコスプレを禁止しています。やはり児童向け作品では権利者が法的措置ではないものの厳しめに見ているのでしょう。実際に裁判になったら結果は分かりませんが、誰も権利者と揉めてまでやりたくないでしょうし。
他にも権利者からの警告が出たんだろうな…というケースは(特にエロ関係で)複数の作品にありますが、基本的に水面下で穏便に済ませるので、公になって裏の取れた話は限られています。実態不明なものはここには書きません。
例に出すのも憚られますが、かの悪名高き煉獄コロアキさんでさえ、著作権では逮捕されていません(2025年5月現在)。彼が逮捕されたのは統一教会本部ビル前でパンツ一丁になった軽犯罪法違反と、路上で陰部を露出した公然わいせつ罪の件です。
[非公式グリーティング禁止、はあくまで限定的な対象]
で、重要な事ですが、万博コスの件で一緒に騒がれてた「非公式グリーティング禁止」というのはあくまで東映や東映アニメーションや円谷プロから児童向け作品の着ぐるみコスプレに対して行った警告であり、ビジネスモデルが異なる「ダンジョン飯」及びKADOKAWAではこうした禁止や注意喚起をした例がありません。
万博会場で通りかかった親子連れと記念撮影した程度で「グリーティング禁止に反している」を責めるのはさすがに無理があります。町おこし系ベントで家族連れに記念撮影を求められて応じるケースと同じ事です。
万博会場で通りかかった親子連れと記念撮影した程度で「グリーティング禁止に反している」を責めるのはさすがに無理があります。町おこし系ベントで家族連れに記念撮影を求められて応じるケースと同じ事です。
任天堂のルールでセガサターンのユーザーは規制できませんよね?同じです。
権利者の定めたルールには従うべきですが、権利者が求めていない規制をオタクが勝手に作るべきでもありません。
■5,オープン派/隠れる派での住み分け論、上手くいかない理由
公共スペースでのコスプレを、オープンに楽しみたい派/隠れて楽しみたい派で住み分けすればいいのでは?という意見もよくあります。
が、うまくいかないんですね。隠れて楽しみたい派の中には、自分達だけでなく全部のコスプレイヤー達が隠れないといけない…という考え方を残している人がまだ存在しており、少数派ほど声が大きくなりやすいのがSNS時代です。
根本的にはコスプレ文化を守りたいという意識のある人達なのですが、「オープン派の人が事件事故を起こす事で、自分たちも含めて公式からすべてのコスプレが禁止される可能性もある!」という、いささか大げさな論法がよく用いられます。
自分が守っているものを、他人のせいで壊されたくないという気持ち自体はおかしくないですが。
実際には過去にやらかした人達もいる訳ですが上記のような心配事には発展せず、やらかした本人や同じ事をやりそうな人たち個人に対して怒られたり警告されたりするだけです(それはそれで重要です)。権利者がすべてのコスプレを禁止したような作品やジャンルはこれまで存在しません(原作者等が個別に不快感を表明したケースはあります)。
でもそんな指摘をすると「将来的にトラブルが起きて禁止になる可能性はゼロではない!」と言われて、火にガソリンを注いでしまう結果になりがちです。
不安ってのは理屈じゃないんですね。不安なんですから。
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また、コスプレ村の住人がコスプレを守るために隠そうとするのとは別に、そもそもコスプレ嫌いな人もやはり存在します。一般人じゃないです。コスプレ嫌いなオタク層です。同人誌を嫌うオタクがいるように、コスプレを嫌うオタクの層も一定数は存在するのです。
コスプレを嫌ってて潰したい人種と、コスプレを好きで隠す事で守りたい人種が、同じような論法を使って同じ対象を攻撃していくのは生物における“収れん進化”(魚類とクジラが同じような形に進化するアレ)みたいで興味深いのですが。
そして、時に被害者意識は憎悪に変わり、理性的な判断や論理的思考を失います。
被害者意識に駆られた時、人間は他人に対して最も攻撃的になります。
現在のSNSは自分と同じような志向の発言を集めてオススメ表示されるので、すぐ0か100かの二元論になってしまい、偏った意見の人がさらに視野狭窄を起こしやすいのです。
今回と似たような炎上で最悪に近いケースですが、こんなニュースもありました。
●SNSで暴走した女性レイヤー「無許可です」とイベントを攻撃して中止に追い込む 「歪んだ正義感」の実態 弁護士ドットコム2023.8.15
埼玉県川越市内を少人数でコスプレ散策するイベントを企画した団体に、「警察の許可を取っていない」として攻撃し(コスプレでの街歩きは違法ではない/少人数なら道路使用許可の申請も不要)、炎上させて中止に追い込んだ女性レイヤー2人と、イベント参加者を通報する意思を示した男性が、名誉棄損で訴えられた件。さいたま地方裁判所から計260万円の損害賠償命令が出たにも関わらず、記事時点で1人が支払いを拒否。
自分の思い込みから、社会のルールよりも“村のオキテ”を重んじて攻撃した結果、当然ながら不法行為が認定されて結構な額の損害賠償、さらに刑事告訴(場合によって前科がつく)まで行ってます。
続報が見当たらなかったので、その後の刑事裁判での有罪無罪、財産の差し押さえ措置があったのか等はちと不明。
■6,個人の言動への批判は、万博コスの是非とは別に考えるべき
今回の騒動の中に、当事者の方の過去の言動が原因で、他の人だったら炎上してないのではないかという指摘もあります。
実際その通りだと思います。他の人が万博会場でコスプレしても大して騒がれてないので、殴りたい対象を絞って殴ってる状態です。
当事者の方はこれまでも奔放な言動があって何かとアンチを作っていたので、そのアンチ層が本人を叩く機会を欲していたのが炎上した理由であろうという。
でもそれ、万博でのコスプレ行為そのものを攻撃する理由として、正しくはありませんよね?
「いじめられる方にも原因がある」(だから私たちが正しい。これはいじめではない)みたいな理由付けですから。
他の言動に問題があるなら、そちらに絞って批判すればいいだけの話で、万博の運営側が一定条件下でコスプレOKして、現地でも特に迷惑行為が発生していないコスプレ行為に対して難癖付けるのはおかしいのです。
(「見る人によっては不快に思う可能性」を迷惑行為に入れるとキリが無いです。ぬい活だって痛バックだって「見る人によっては迷惑な可能性」がありますし、「不快な人も面白がる人もいるし、大概の人にとってはどうでもいい」なので)
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さて、ささやかに提言なんですけど、「万博での版権コスプレは禁止」「コスプレでのグリーティングは禁止」の2点に関しては明らかに誤認があるので、これ言っちゃった人は早めに撤回と謝罪して、当事者の方の他の言動を批判する方にシフトした方が戦略的にはまだ説得力があると思われます。
誹謗中傷の問題と混同されがちなんですけど、単純な誹謗中傷「バカ」「死ね」は侮辱罪です。しかしルール違反してない人を違反として吊るし上げる行為は「社会的評価を低下させる行為」なので、より重い名誉棄損罪の方が成立します。親告罪ですが。
冒頭の通り、他人の著作権侵害を批判しようとして、自分が名誉棄損を成立させてしまっては意味が無いです。それ、人生と引き換えになりますよ。
でも、無理なんですよね。特に匿名アカウントの人達、訂正や謝罪という責任を負わないために匿名活動してるので。今時、匿名でも開示請求すればすぐに法的に個人特定されてしまうのですが。
今は“村のオキテ”違反者を晒し上げて攻撃しても、それが傍から見て理不尽に見えれば、攻撃した側が逆炎上させられる時代です。ざまーみろ、なのですが。
正直、そんな攻撃的な喧騒を見せられて疲れちゃった人が多いんじゃないかと勝手に推測しています。
でもね…あ、この先は完全に私見ですので読み飛ばしても結構です。長い文章もそろそろ終わり。
■7,まとめ:繰り返される議論の先に
1990年代末に後楽園ゆうえんちでテーマパーク系のコスプレイベントが始まった時も、
2000年代に町おこし系コスプレイベントが商店街や公園で始まった時も、
2010年代にハロウィン関連で公共スペースを使ってイベント以外のコスプレが出てきた時も、
2020年代に更衣室無しでコスプレ参加できるイベントや施設が増えてきた時も、
「一般人の前でコスプレしていいのか?」「不快に思う人もいる」「権利者に怒られたらどう責任取るんですか!」「目立つためにキャラを利用している」
…って、ずっと言われてきたのです!
その都度、議論はあったけど数年かけて何となくそれが定着して、また次の時代に移って拡大して行きましたから。万博での件もまた、その過程の一つに過ぎません。
今回、大阪万博という国際博覧会の会場でのコスプレが議題になるというのは、隠れるしかできなかった時代にコスプレ始めた人間から見ると、実に感慨深いです。
コスプレの世界は規模は大きくなっても結局は同じ議論の繰り返しです。
多分、100年先にはスペースコロニーの独立記念祭でコスプレ参加する行為が、また議論になってるんじゃないでしょうか?
んで重要なのは、問題が起きるとしてもそれは今現在コスプレに関わってるレイヤーなりイベンターなり、集客したい施設なり自治体なりの人間が、例え揉めながらでもすり合わせていけば良いのです。間違っても、元レイヤーの愚痴アカだのお気持ち表明アカだのが世論ではありません。現役ではない人達はどうしても時間が止まってしまってるからです。
おじいちゃんおばあちゃんの戦中戦後にかけての話は貴重ですし忘れてはいけませんが、それは今の時代の基準にはなりません。
そして勘違いしちゃいけないのはコスプレ文化ってのは、一人の有名人やスーパースターが何かを変える訳じゃないのです。
悪いですけど今回の当事者の方も、あるいはその他メディアで持ち上げられちゃってるような有名レイヤーも、あるいは炎上ネタを振りまいている煉獄コロアキさんも、彼ら彼女らによって時代を変えるってのは、無いです。特定の誰かが先導して何か変えるものではないのです。
悪いですけど今回の当事者の方も、あるいはその他メディアで持ち上げられちゃってるような有名レイヤーも、あるいは炎上ネタを振りまいている煉獄コロアキさんも、彼ら彼女らによって時代を変えるってのは、無いです。特定の誰かが先導して何か変えるものではないのです。
時代の移り変わりとは、歴史には名を残さない多くの人達が、何となくそれを望んで受け入れる事で変わっていきます。たまたま節目に立ってファーストペンギンになってくれる(なってしまう)人はいるけど、仮にその人がいなくても誰かが同じような事をしますし、望み求め行動する人が増えていく事で時代は変わるのです。
別の言い方すると、「なるようになる。なるようにしかならない」。
だいたい、コスプレの未来を語ってるヤツなんて10年後には殆どが消えてるのです!
[とりとめないのでシメる!]
公共スペースでのコスプレの是非、更衣室のないイベントや施設でのコスプレの是非は、地域差や世代観にもよるので、法律論でOKであっても感情論として一律に納得できるものではないでしょうし、日本人の美徳として不特定多数の前で自我や主張を出し過ぎる事を避ける感覚もありますから、忌避感がある人はいるでしょう。「人前で宗教と政治の話はしない」「食事中にうんこの話はしない」みたいなもので、上の世代にとっては活動初期に徹底的に教育された価値観ですから、それは仕方ないです。許せない人は許せないんです。
“因習村”とまで言われて馬鹿にされがちな“村のオキテ”が、過去には世間からのオタク文化やコスプレへの嫌悪の目から、レイヤーを守ってきたのも事実です。
かく言う筆者も、ある時期までは意識の高いレイヤーというか、そういう“村のオキテ”に反する行為をSNSで見つけると注意したり批判したりして回ってる、今思い返せばクソうざいレイヤーだったと思います。その意識が変わるまでの過程でグダグダな葛藤はありましたし、若い世代の行動にはやはり増長や危うさも感じています。前にも書きましたけど、私は町おこし系イベント以外では日常的な公共スペースでのコスプレはしないです。着ぐるみなので公式アトラクションと誤認されても困るので。
でも上の世代での固定化していた価値観=“村のオキテ”が、誰もがコスプレをもっと自由に遊ぶ事の足枷になってしまってた面はあるのではないかと、年取ったせいか振り返って思うのです。
世の中の前提が変わっちゃったので、若い世代ほど「隠せ!隠せ!」では伝わりませんし、世間がオタク文化やコスプレを怖がらなくなっちゃった以上、隠す事の意味が薄れてしまったのです。
もちろん、隠れて楽しみたい派の人にも隠れる自由はあって然るべき。隠れる事を他人には強要できなくなっている、という話をしているので。
もちろん、隠れて楽しみたい派の人にも隠れる自由はあって然るべき。隠れる事を他人には強要できなくなっている、という話をしているので。
また最初の話に戻って、冒頭にも書きましたけど厳密にいえば万博会場は公共スペースではなく、公共性は高いながら施設管理者・イベント運営者が明確に存在する私有地ですし、その運営側である万博協会がルールとして“更衣室は用意しないけどコスプレ入場は条件付きOK”として線引きをしていますので、近隣ホテルで着替えてタクシーで来場してスタッフからも咎められてないなら、それで済む話なのです。
現地観覧組からの報告では、会場内は外国人も含めてコスプレして入場してる人は他にもチラホラいて、色んな制服や民族衣装が歩いてるし、そもそも人が多いから紛れてしまって目立たないとか。
万博がつくったルールに沿ってコスプレ入場してる人達に向かって、万博に行かない人達までが“コスプレ村のオキテ”を持ち出して叩いしまってるとしたら不毛です。
意地悪な見方をするなら、大阪万博の計画では183日間の期間中に想定来場者2800万人。つまり一日平均15万人超となる計算ながら、5月現在まで最大でも一日13万9000人。この状態では何としても集客を増やしたいのが本音でしょうから、運営側で線引きされたルール内でコスプレしたいならすれば良いし、それを視界に一切入れたくないなら会場に行かなければ済みます。
そして、ぬい活や痛ファッションや痛車と同じでコスプレも悪目立ちしやすいですから(普通車の事故現場は通り過ぎるだけの人が痛車の事故現場だと面白がって撮るみたいな話です)、服装は異端でも行動には気を付けるべき。それはコスプレ姿に限らずなのですが。
冒頭に書いた通り、「好き/嫌い」と「良い/悪い」は分けて考えるべきで、混同してはいけません。
長々と書いたこのブログが、誰かの思考の糧となったり、モヤモヤした気持ちを晴らすために有効に読み広めていただける事を願っております。
長々と書いたこのブログが、誰かの思考の糧となったり、モヤモヤした気持ちを晴らすために有効に読み広めていただける事を願っております。
Q. なんで煉獄コロアキ氏だけ“さん”付だったんですか?
A. 彼は包茎手術を受けてから下半身を露出していたので、剥けている人に対しては敬称・敬語を使うというのが、男性レイヤー界隈ではマナーであり暗黙の了解であり村のオキテなのです。
[次回予告]
「コミケ準備会vsとなりでコスプレ博!血と銃弾の泥沼20年抗争史」
巨大化しすぎたコミケと、その足元で便乗イベントを続けてきたコスプレ博。時に水面下で協調し、あるいはビッグサイト改修期のTFTビル使用権をめぐって血なまぐさい抗争を繰り広げた、狼たちの記録、実録暴力団抗争史…!(半分ウソ)
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[今回の参考文献・関連記事おさらい]
●コスプレまたは仮装をしての入場は可能ですか。 – よくあるご質問 Expo 2025
●BOOTH通販 「同人・コスプレ学級会 傾向と対策」シリーズ既刊、まだ在庫あります。
夏コミc106はサークル「旅と怪獣」で、2025/8/17(日)東5ホール “ツ”ブロック-41a