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「茂造~閉ざされた過去・完結編~」
http://shinkigeki.laff.jp/blog/2010/03/post-a6ef.html


素晴らしかった…今まで見てきた色んな芝居の中でも、5本の指に入るくらいの満足度でした。


あ、と言っても多くの人は新喜劇も茂造じいさんもよく知らないと思うので、ちょっと説明します。

他の地域の人には新喜劇=吉本新喜劇のイメージですが、大阪には50周年を迎えた吉本新喜劇と、60周年を迎えた松竹新喜劇とがあり、長く互い をライバル…というか敵視してきました。
・吉本新喜劇→“芝居仕立てのお笑いライブ”(出演者は「芸人」)
・松竹新喜劇→“お笑い要素も入れた人情芝居”(出演者は「俳優」)
その二つが、50年の歴史を越えてついにコラボ舞台を実現させたのです。

タイトルの「茂造」じいさんも説明しておかないといけませんね。

「生活笑百科」でもおなじみの辻本茂雄が演じる人気キャラクターで、舞台の上で傍若無人な大暴れを繰り返す、超破天荒なジジイです。
よく「寛平じいさんの再来?」と言われますが、ちょっと違います。
寛平じいさんは芝居の流れそっちのけでひたすら一人で(もしくは池乃めだかと)暴れまくりますが、茂造じいさんは若手芸人やブサイク女優を徹底 的にイジリまくって笑いを作ってるんですよ。
だから他の座長の公演ではパッとしなかった若手が、茂造じいさんと絡む事で人気が出て有名になるケースも多いです。
(辻本茂雄が座長を担当する様になった頃は、吉本興業が東京進出に乗り出して、新喜劇に若手しかいなくなってしまった時期だった)
個人的なカンですが、きっと島田紳助の芸風が大嫌いだという人は、茂造ネタも見ない方がいいと思います。紳助を好きでないまでも、あのイジリの 上手さが分かる人には茂造ネタも勧めます。

さてさて。

吉本新喜劇の常設会場である京橋花月を舞台に、“茂造じいさん”という人気キャラの過去をフューチャーするというストーリーに、松竹新喜劇から 渋谷天外をゲストに招いて実現したこの芝居、見に行かない訳にはいきません!
初の大阪・本場での新喜劇(といっても狭義での本場は、なんばグランド花月の方ですが)を見てきたのです!

(ここから茂造の過去話のネタバレを含む。いや、そもそも茂造じいさんの話がどれだけの人に伝わってるのかは知らないんだけど)


内容は、前半後半の二部制に分かれます。
前半の第一部は、いつも通りのドタバタコメディ。
地方のホテルでバイトしている茂造じいさんが、ホテルオーナーの娘(秋吉久美子)とホテルマンとの密愛を知ってしまい、娘に持ち上がった若手実 業家(伊賀健二)との縁談をぶっ壊そうと、他の従業員達(山田亮)と一緒に一肌脱ぐ…という、過去何十回と繰り返されて来たパターンに、お約束のギャグを これでもか!と詰め込みまくったコテコテの吉本新喜劇でした。
「調子こくなブサイク!」「つまらない物にはメーン!」「横顔メッチャ新幹線やー!」「許してやったらどうやー」その他アドリブなどなど、テレ ビで繰り返し繰り返しみてても、生で見るとやっぱりまた笑ってしまう…!


後半の第二部は、ガラッと趣が変わります。
茂造じいさんの過去を描く回想劇で、35年前の出来事が描かれます。
大阪で洋食屋を営む、元刑事の頑固オヤジ(渋谷天外)と妻(浅香あき恵)、その娘ミキ(オーディションで選ばれた新人・永田沙紀)。
そこに入り浸ってるのが、司法試験浪人生の法律知識を生かして、ヤクザの街金を合法的な金融業として再生させた茂造(だからヤクザ役のローテー ショントークネタやってる)。
密かにミキに想いを寄せる茂造は、ミキに持ち上がった縁談話を邪魔しようとしつつ、自分は告白できないジレンマを抱えます。
そしてついに結婚式の日、ミキを協会から連れ去って式をブチ壊してしまいますが、ミキは自分も茂造を愛していた事を明かし、茂造はオヤジさんに 憤慨されながらも、ミキにプロポーズします。
しかしミキは難性の白血病が進行している事を診断され、それを茂造に告げることが出来ず、迷惑をかけまいとウソをついて別れようとするのです。
それでも真実を知った茂造はミキを訪ね、ミキは保留していたプロポーズを受け入れ、改めて二人は共に生きていくことを誓うのですが…。
ようやく迎えた結婚式の当日、式場前で倒れて病院に運び込まれたミキは、もう既に自分に死期が迫っている事を自覚しており、病室でオヤジは神父 の台詞を真似ながら茂造とミキを結ばせると、満足したようにミキは息を引き取っていくのです。



…ね?普段の吉本新喜劇のノリじゃないでしょ?

渋谷天外が茂造に向かって『お前のブチ壊した縁談、もう一度話がまとまった。ミキは相手の事業を手伝うためにアメリカへ行く。…頼む、二度とこ の家の敷居は跨がんでくれ』って頭を下げて追い返した後、奥から出てきた娘に向かって『…本当にこれで…良かったんやな?』って問いただすシーンとか…ホ ント良い芝居なのよ!!
“間”の取り方がもう、全然違うのさ。
吉本新喜劇ってお笑いだから、間を開けずにどんどんギャグを入れていくじゃん?でも松竹新喜劇って人情芝居だから、台詞も何も無しに、表情や仕 草だけで間を作っていくんですよ!!
もうね、お涙頂戴でコテコテなんですけど、それを目の前で生の芝居として見せられちゃったらホント、客席で31歳の男が、すんすん泣き出しちゃ いましたからね!


なぜ、茂造じいさんは頻繁に民謡を歌うのか?

→亡くなった恋人が、ソーラン節のダンスチームをしていたから。

なぜ、茂造じいさんは常に紺のジャージを着ているのか?

→その恋人からダンスの練習用に貰った、無名メーカーのジャージを今も愛用しているから。

なぜ、他人の恋愛話に首を突っ込みたがるのか?

→自分自身が、愛した人と結ばれなかったトラウマがあるから。

なぜ、お土産の「つまらない物」を杖でぶん殴るのか?

→元は、縁談を邪魔しようとしたコックがやっていた妨害ネタだった。


ラストシーンは茂造が和太鼓を叩いてる前で、20人以上のダンサーがソーラン節で激しく踊り狂って〆てましたからね!

カーテンコールで辻本茂雄本人が、『茂造じいさんにはこんな過去があったという事で…次、吉本新喜劇見た時、笑われへんやろ?』って言ってまし たけど、その通りだよ!!
(でも回によっては茂造じいさんの孫が出てきたりするので、設定は一貫してませんが。あと35年前に「司法試験に8回落ちた」なら、今現在は65 歳くらいの設定?)

まさに笑いあり涙あり、全部あわせて2時間40分の長い舞台でしたが、繰り返して言うけど、ホント素晴らしかった~…

いま、強引に半年振りの有休取って(平日しかチケット残ってなかった)、大阪まで行ってきた 甲斐が有ったわ~…。
これ見られなかった方が、自分の人生においては絶対に損してたもの。本気でそう思える芝居でした。


隠居したら大阪に住もうかと思い始めました。